298.アキラ、盾にする。

 一か八かあの言葉を唱え始める。




「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。奢れる人も久からず、ただ春の夜の夢のごとし。」




そう懇願するように唱え続ける。




すると、不思議なことに手が落ちついてくる。なぜだか、わからないが掻くのをやめることができた。




「猛き者も遂にはほろびぬ、偏ひとへに風の前の塵におなじ・・・。ああ、収まった・・・。」




皮膚はヒリヒリと痛んでいたが、数分もすればその痛みは収まっていく。




しかし、身体から滴り落ちる血の匂いが良くないモノたちを誘いこむ。




後ろから何かが近づいてくる音が聞こえてくる。




「、・・・・ォ!! チ・・・・・・ロォ!! 血肉を食わせろぉ!! 」




それを聞いた瞬間、走り出す!! 明らかに、殺意しか感じられないその言葉に思わず、逃げ出したのだ!! 




全力で、山の坂を駆けあがっていく。後ろを振り向かないのでも、




『ブンッ!! ブンッ!! 』




と風を切る音で、奴らが武器を持っていることを悟る。




追いつかれたら、殺される!! 




その一心で走る!! 走る!! 無我夢中で走る!! 後ろから矢や石が飛んでくる。何個かそれが頭を掠め取る。




運よくそれらに当たらず、奴らを振り切っていく。段々と殺意は遠ざかっていく。なんとか、逃げ切ったかに思えた。




 だが、それは早計であった。なんと奴らは、先回りして僕の目の前に現れたのだ。




その姿は、飢えた獣のように身体はやせ細り、腹だけ異様に膨れ上がっており、まるで、餓鬼道の亡者のような様相であった。




「血肉ッ!! 血肉を食わせろッ!! 」




「ハァッァアアァァァァァァァッ!!! 」




目は血走り、考えもなしに鈍器を振るう。




そして、亡者たちは一斉に襲い掛かってくる。自分もあの男から、もらった小刀を取り出し、応戦する。




しかし、奴らは群れと呼べるものではなかった。




亡者を1人切れば、他の亡者どもがその血肉を我先にと喰らい始める。奴らには、仲間意識などなく、他の亡者ごと剣や槍を貫いてくる。




その予想外の攻撃に、僕は苦戦する。気が付けば身体中血だらけであった。非道にならなければ、殺される。そう思い、一匹の亡者の死体を盾にして戦い始める。




幸いなことに、奴らの攻撃は感情に任せた単調なもので、読みやすく容易に防ぐことが出来る。亡者の死体がボロボロになれば別の亡者の死体を盾にする。




その作戦は功を奏し、亡者たちを次々と殺していく。




そうして、身体に多くの傷を覆いながらも、最後の亡者の息の根を止めるのであった。

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