296.アキラ、川を味わう。

 伸ばした手を掴んだのは、大きな手であった。そして、その手は僕を水中から引き上げてくれる。




「ケホッ・・・、ケホッ・・・。」




嗚呼、三途の川の水飲んだかも、口の中の味は、ゲロマジ・・・。




「まだ生きてるか? って今は死んでるか。ハッハハハハハ。」




そう言って、男は笑いながら僕の様態を確認する。




状況がうまく理解できない僕は、とりあえず一旦落ちつく。




「助けてくれて、ありがとうございます。ところで、あなたは一体何者なんですか?」




当然の疑問を引き上げてくれたことには、感謝するがまさか死神の登場かと予想していると、意外な答えが返ってくる。




「何物でもない、ただの船頭だ。」




そう男は答える。その言葉には嘘偽りは感じられず、本当のことを言っていると直感が告げる。




だが、それならばなぜ僕を助けたのかと疑問に思う。




すると、男は何かを悟ったのか、




「言っておくが、お前の助けたのはお前の為じゃない。俺の知り合いのためだ。お前が、死ぬとひどく悲しむからな。」




そう面と向かって言われると、ちょっとへこむわ・・・。




ん? 死んでるのに死んでない。もしかして、こここの世とあの世の境目なのか・・・。




そんなやり取りをとっているうちに、小舟は川を上っていく。




 しばらく、男は桃を食べながら、舟を操る。




「よぉ~し。俺が案内してやれるのも、ここまでだ。後はお前さんの次第だ。」




そう言われて、舟から降ろされる。




「あの山の頂から、元いた世界に帰れる。言っとくが、決して振り返っちゃ駄目だからな。振り返ったら、もう一生この世界から出れないと覚悟しておけよ。」




そうぶっきら棒に言うが、なんだか心配してくれているようで。




「嗚呼、もうしゃーないなぁ・・・。ほら、この小刀持っていけ。それと桃の種をお前にやる。」




「えっ・・・、こんな高価そうなもの頂いていいですか!? 」




「あ、やるやる。ほら、いけいけ!! 」




そうなんだか不思議な力がありそうなナイフのような小刀と、明らかにさっき食ってた桃の種をくれた。後者はゴミ押しつけやがってと考えるが、小刀くれたし、イーブン!! としておこう。




男は、そそくさと小舟を出して、どこかへと行ってしまう。




「あっ!! いろいろありがとうございましたぁああああああああああ!!!」




そう男に向かって叫ぶと、男は後ろ向きで手を振りながら、答えてくれた。




ここから、絶対に振り返っちゃいけない登山が始まるのであった。どこかで、同じシチュエーションあったような気もするが、まぁ思い違いだろうと考えずにどんどん進んでいくのであった。

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