295.アキラ、舟にのる。

 命からがら不気味な少女から逃げ切ったが、歩いているうちに身体に不調が出始める。悪寒がひどく。思考のまとまりがなく、左右によろめき始めていた。




「た・・・ただ・・・い・・・。」




朦朧とする意識の中で、なんとかテラの家に辿りつく。だが、体力の限界でその場に倒れ込む。呼吸は頻回で、震えも段々となくなっていく。




「ねぇ、大丈夫!? アキラ! アキラ・・・ッ!! 」




消えゆく意識の中で、呼びかけるイリスの声がする。しかし、その問いかけに答える気力は僕の中には残っていなかった。




 ふと、気が付けば、小さな小舟に自分は乗っていた。そこは暗く冷たい場所であり、川のせせらぎが聞こえる。同乗する他の人たちの顔は、暗く虚ろである。




次第にここがどこなのか理解し始める。




「そうか・・・。僕死んだんだ・・・。」




そして、ここが三途の川であると感じ始める。




まさかとは思っていたが、本当にあの世は川が流れているとは思ってもみなかった。




「精霊さん・・・、精霊さん・・・。」




そう問いかけても、何も返事はない。それもそうかと思いながら、舟に揺られながら三途の川を下っていく。




段々と周りの景色は、殺風景な暗闇から、秋を思わせるヨシとススキの映える川べりへと風景を変える。




どこか落ちつくその景色に、心が奪われる。




このまま、川の流れのままにいってしまうのも良いかもしれない。そう思い始める。すると、少しずつ小舟に水が入ってくるではないか。




そして、徐々に徐々に小舟は川の底へと沈んでいく。だが、不思議と心は落ちついていた。皆もそれに動じず、ただただそれを受け入れて入水していく。




自分も同じくそれを受け入れて水の中へと沈んでいく。




次第に水は顔のところまで来て、徐々に息ができなくなる。だが、苦しくはない。それでいいのだと、目を閉じれば怖くない。そうして、身体は暗い川底へと沈んでいく。




 おそるおそる目を開けると、異形の髑髏が見つめていた。思わず、周りをみると先ほどまでの様子とは一変し、皆の顔は骸骨と化し、その顔は恨めしそうな表情をしている。




「ううううう・・・。」




「死にたいくない・・・、死にたくない・・・。」




亡者たちは、水面に手を伸ばす。足掻いても無駄なのに、なぜ足掻く。でも、本当に足掻かなくていいのか。なぜ、こんなに後悔の念に苛まれるのか・・・。




「皆を置いて、ここで死ねるかッ!! 」




その感情が心から溢れだし、手を伸ばす。皆に会いたいその思いで水の中をもがく。だが、水面は遠のいていく。




ここまでかと諦めかけたその時、




「諦めるなぁ!! 」




と叫ぶのが聞こえるのであった。

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