269.アキラ、這いずる。

 『ブゥ~~~~~ン、ブゥ~~~~~ン』




ハエの羽音で目が覚める。全身の熱傷部位は赤く腫れていたが、そうしなければ今頃大量出血でショック状態になっていただろう。




そう考えれば、多少ハエが集るくらいどうってことない。だが、思った以上に呼吸が身体が動かない。




「宿主、異能のPerseverance(忍耐)が向上しました。しかし、現在の状況は予断を許さない状況です。マナの摂取をオススメします。」




その言葉を聞き、辺りを見渡すが近くにあるのはクヌギの大木だけ。一か八かナイフを突き刺す。




『ガッ!! ガッ!! ガッ!! 』




そうして、幹を気付けていると、ねちょねちょとした汁が垂れてくる。口を開けて仰向けになり、その汁を飲んでいく。




その味は無味、いや微妙にまずい味であった。しかし、マナが回復しているのを微々たる量であるが感じる。まずい味でもそれを舐め続ける。




 そうして、舐め続けていると、段々と身体が言うことを聞く様になってくる。そうして、身体を引き摺りながら沢へと歩いていく。




沢に生えている山菜を引きちぎり、電気で熱して食べる。苦い。だが、マナは回復していく。そうして、獣のように沢に生えている山菜を食べていく。




腹が膨れる。しかし、身体はまだマナが足りないと訴えてくる。しょうがなく、強引に食べる。口は拒否反応を起こしてくるが、無理やり食べさせる。




ハチが心配そうにそれを見つめてくる。




さらに食べて進めていくうちに、身体の訴えは段々と収まっていく。腹が草でいっぱいでもう動けない。




今にも吐きそうな口を抑えながら、その場でじっとするのであった。




しばらくの後、腹も収まり少しだけ回復する。いつクマが戻ってくるかわからない、できるだけこの場から離れるため、少しずつ家の方へと歩いていく。




ハチは心配そうに先を進みながら、後ろを頻りに振り向く。




その道のりは長く険しいものに思えた。どれだけ歩けば着くのだろうか、どれだけ足を動かせば辿りつくのだろうか。




必死に歩いていくが彼方に家が見えたところで、バランスを崩し、倒れてしまう。




「後、もう少し・・・。後、少しなんだ・・・。」




這いずりながら進んでいく。ハチも頭を押し付けて、前に進むのを手伝ってくれるが、イモムシのように這いずる力もなくなっていく。




そうして、最後には力尽き、意識が消えていくのであった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る