267.アキラ、乱れる。
クマの親子の足跡を追い、ハチと一緒に森の中へと入っていく。ハンターセンスがいつも違う森の雰囲気を敏感に感じとる。
ブナの科の木々には、鋭利な爪痕が残っていた。
これはブナの若葉を採食するため、樹上に登った時についたものである。
この時、枝を手元にたぐり寄せて採食しようとして、そのときに枝が折れ、枝の塊が座布団のように棚状になったものをクマ棚と呼ばれる採食痕跡を残すことがある。
それが多い年は凶作と言われているが、素人目でも今年がその年であることは明白であった。
それから、足跡を追って移動する。途中、クマの親子は倒木の木の皮を剥がし、昆虫の幼虫を食べた痕跡などを残していく。
追っていくうちに、涼しげな沢へと出る。
そこには、山菜が生い茂っている場所も確認できたが、同時に沢を歩けば、あちこちで植物が倒れ、クマが食べた食痕やクマ道が至る所にできていた。
さらに、その付近でクマの糞を発見する。それはまだ湿っており、独特の植物の臭いが辺りに漂う。
「宿主、この糞はとても新鮮な糞です。付近にクマがいるかもしれません。ご注意を。」
精霊さんの判定は新鮮な糞。それはつまり、近くにクマがいるかもしれないということである。
身を屈めあたりより一層、警戒しながら沢の近くを歩いていると、立木の穴に手を突っ込んで、何かを取り出そうとしている大きな物陰を発見する。
すぐに、木の陰に隠れて様子を窺うと、それはクマであった。そして近くに子供のクマもいる。どうやら、痕跡を追っていたクマの親子で間違いないようだ。
間近に見るクマに思わず、身体が震え呼吸が荒くなり始める。
矢を取り、弦を引き構える。だが、沢の冷たい空気が頬をなぞり、息を止めようにも、焦燥感が心を乱して息が整わない。
一撃で仕留めなければ、反撃を喰らうかもしれないという、焦りが手元を狂わせる。その感情が伝わったのか、親グマが辺りを見渡す。
そして、気付かれ、鋭い目つきが僕を睨みつける。その我が子を守ろうとする圧に圧倒されそうになる。
それにより、心は乱される。そして、そのまま狙いも定まらないで、矢を解き放ってしまう。矢は真っ直ぐに飛んでいき、オヤグマの右肩を抉る。
「グヷァアアアアアアアア!! 」
オヤグマは叫び、こちらを睨みつけたかと思った瞬間には、全速力でこちらに向かって突進してくる。その光景に、全身が硬直してしまう。
そして、気付いた時には黒き巨体が眼前に迫っていたのであった。
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