第十九章 本能
266.アキラ、緊迫する。
まずいことになった。クマがこの家の近くを縄張りにしはじめたということは非常にまずいことである。
この付近をうろついて、もしテラたちに何かあっては一大事である。対策を講じる必要があると考える。
すぐにできることとして、家の周りに柵を立てる。皆にもクマがこの辺をうろつき始めていることを伝える。
念のため、その晩はテラの家で寝ることにする。
しかし、事件はその夜に怒った。ハンターセンスが危険を告げる。すぐに、寝ていた彼女たちを起こし辺りを警戒する。
林で遭遇したプレッシャーに似ている。すぐにそれがクマであることを感じとる。
『バキッ!! バキバキッ!! 』
と外で何かが壊れる音がする。
「きゃっ!! 」
誰かがその音に悲鳴を上げる。プレッシャーが一段と強くなる感覚に襲われ、ほどなく
『ブォォォォォォン、ブォォォォォン・・・』
という地鳴りのような重低音が家中に響き渡る。皆に緊張が走る。
『ドシ・・・ドシ・・・、ドシドシ・・・。』
その音が一歩、一歩段々と近づいてくる。その状況に皆が、冷静でいられなくなっていく。
そんな緊迫した状況に飲み込まれそうになりかけるが、不安をなんとか抑えつけて、頭を落ちつかせる。
「イリス、アルテシア・・・。」
そう彼女らに目配せをする。その意図をわかってくれたのか。小声で、
「汝・・・、我に・力を示し給へ・・・。」
そう彼女らは呟く。自分もナイフを両手に持ち、電流を流す。家の中に奴が突っ込んできた際は、真っ先に自分が囮になるつもりで、圧の方向を見る。
どれくらいたっただろうか、緊迫の時間が永遠に思えるほど流れた時、壁を隔てて感じとっていたプレッシャーはいつしかなくなっていた。
イーグルビューで外を見るが、もうそこには何もいなくなっていたことを感じる。皆もそれに気付いたのか、安堵のため息を出す。
翌朝、なんとか皆、無事で朝を迎える。しかし、策は壊されて、畑の野菜を食い荒らされていた。
畑には、無数のクマの足跡が残されており、大きさ、足跡の数からこの付近に住みつき始めている親子のクマだと判断する。
その事実は、やっかいな相手だと考えられる。多分、この親子は元々、住んでいた場所で食べ物が取れなくなったために、この付近まで来た可能性がある。
この場合の、子連れの母グマが最も危険である。
母グマは、人と出会っても子グマを助けようと決して逃げないからである。特に母グマと子グマの間に入れば、攻撃される確率が高い。
しかも、イノシシやシカなどとは違い、強力な爪と牙があるクマを相手にすることになる。
元の世界でクマなんて動物園でしか見た事がなく、生態や行動がわからない相手に、挑むのは少々リスクを感じる。
しかし、昨日のことが頭を過る。そうして、身に迫る危機感がクマに挑むことを断行させるのであった。
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