219.アキラ、捕える。

 梅干し作りがひと段落した所で、もう一度罠の様子でも見に行く。なんとなくだが、獲物が掛っている気がしたからである。




そうして、仕掛けた罠を巡回していると、




『ガサガサガサ・・・。』




と何かを揺らす音が聞こえる。まさかと思いその音に近づいていく。すると、




『ピャッ!! 』




特徴的な威嚇音が聞こえる! この声は前にも聞いたことがある。そうして、声がした罠の場所へ向かう。




『ピャッ! ピャッ! 』




そこには、片方の足が罠にかかって動けないオスシカが、こちらに向かって威嚇していた。やっとこさ、シカを生け捕りすることに成功する。




「ハハハ!! ついに、掛ったな。よぉし、それでは精霊さん! 手短にラーニング! お願いします!! 」




すぐに精霊さんに、思考ラーニングを開始してもらう。その間にオスシカはどうにかして、逃げようと足掻くがどうにもうまく逃げれない様子である。




鹿が逃げない様に、周りをその場にあった木々を使い、即席の柵で囲む。




『ピャッ! ピャッ! 』




そして、完全に逃げ道を完全に封鎖してしまう。シカはもう逃げることができないと悟ったのか、動かなくなる。




だが、目にはまだ生きようとする意思が感じられ、こちらをじっと睨みつけている。さすが、野生。生への執着心が違う。




そっちがその気ならと、こちらもじっと睨みかえす。




 その間にも精霊さんの思考ラーニングは着々と進んでいく。




「精霊さん、学習状況はどんな感じ? 」




そう聞くと、




「現在、シカの思考を25%ほど完了しました。」




前回より、早いラーニングスピードに驚く。




「おお!! 早いね!! 精霊さん!! 」




「当然です。宿主が成長しているように、私も成長しているのです。」




そう誇らしそうに主張してくる。やはり、精霊さんは僕にもったいないくらい有能すぎる。




『ピャッ! (バナベ! ) ピャッ! (バナベ! ) 』




と鳴く。まだ25%ということもあって、内容はよく分からないが状況から察するに、離せと言っていると推測する。試しに、シカとコミュニケーションをとってみる。




口笛を吹いて反応を窺う。




「ピューー! 」




と吹いてみるが、ぷいっと首を横に向ける。どうやら、鳥のように口笛で靡いてくれる相手ではなさそうだ。




「宿主、この際、【鹿呼び笛】を作ってみてはどうでしょう。」




と精霊さんがアドバイスをくれる。




「鹿呼び笛・・・あっ!」




ハっとする。一時期、縄文・弥生時代にハマっていた時に、博物館の企画で、作った経験を思い出す。




材料はなんとか代用できそうだし、試しに作ってみるかと決心する僕なのであった。

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