182.アキラ、釣り上げる。

 翌朝、最後のシカ肉を食べる。そして空の壺を持って、炭の様子を見に行く。炭が眠っている山型を、触ってみるとほんのり温かさを感じる。




穴を開けて、中を覗く。燃えている様子はなく、完全に鎮火したことを確認する。山型を解体して、本題の炭の出来を見てみる。




まっくろで、少し軽く、ほのかに炭特有の匂いがする。炭と炭を擦り合わせると、パサパサという音を出している。これは、うまくいったと確信する。




全体で、6割ほどは、ちゃんと炭になったが、残り4割は白く灰化していた。差し詰め、外側の奴だと予測する。これは、改善の余地ありだなと考える。




そうして、ちゃんとできた炭を壺に入れて、拠点に運び入れる。そうして、拠点に黒い小さな山型ができ、拠点内にほのかに炭特有の匂いが立ちこめる。僕的には、この匂いは好きな方だ。




ただし、ハチはその匂いがあまり好きではないようで、拠点の外に出ていってしまう。これが、動物と人間の感性の違いかと、納得してしまう。




 それでは、次に、昨日、水に漬けていた木の様子を見に行くとしよう。冷たい川の水の中に、手を入れて、木を取り出す。木を曲げてみると、昨日より面白いほどしなっている。これならば、竿に最適だと、実感する。




その木で、早速釣り竿を作る。しなる木に、細長い繊維を巻き付ける。そして、繊維の端に、魚の背骨の骨を結んだら、簡単な釣り竿の完成だ。




それで、餌は、地面を掘って出てきたミミズを骨の針に突き刺す。そして、いよいよ、釣りの始まりだ。




さっそく、竿を持って、腕を振る。その慣性で竿がしなり、糸が飛んでいく。さてさて、魚は釣れるかなと期待して待つ。




逸る気持ちを抑えて、待つ。




「まだかな、まだかな。」




と待つが、当たりなかなか来ない。まぁ、最初だから、仕方ないかと待ってみる。




しばらくしても、当たりは来ない。おかしい、予定ではすぐに、一匹釣れるはずなのにと思うが、釣れる気配はまったくしない。




しょうがないので、餌をあげてみると、なんと餌を食われていた。まさかの光景に悔しさが、こみあげる。それでも、もう餌をセットし、また釣ってみる。




今度は、微かな感触も、逃さぬように全神経を、竿に集中させる。目を瞑ると、より一層、感覚が鋭くなる。そうして、長いこと目を瞑っていると、




『チョン・・・チョン・・・』




と何かが摘む感触が伝わってくる。その感触に、合わせるように、竿を上下に揺らす。まるで、餌が生きてるように、思わせる。そして、




『パクッ』




と何かが餌を咥えた感触が伝わる。その瞬間、竿を引っ張る。すると、強い力が、かかる。それに、負けじと両手で竿を上げると、川から魚が飛び上がる。そして、そのまま、こちらに寄せる。




ようやく、一匹目を釣り上げることに成功する。その魚の大きさは昨日食べたサイズより、大きかったのであった。




その瞬間、精霊さんが、




「宿主、異能のハンターセンスが向上しました。釣りというものは、トレーニングに最適ですね。」




と報告してくれる。自分自身も、感覚が研ぎ澄まされるような気がしたのであった。それから、また餌をセットして、川に投げ込む、アキラのであった。

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