163.アキラ、飛びこむ。

 その日は、朝から生憎の大雨だった。その影響で、近くを流れる川の水かさは増していた。




『ザー、ザー』




辺りに、木霊する雨音。僕はというと、ここを離れる準備を整えて、いざ出発という段階での雨。それが止んでから、出発することにしていた。




しかし、得体の知れない死神にとっては、この雨は待ちに待った状況であった。ハンターセンスがあの時、感じた恐怖を再び知らせる。




奴が来る! そう思った時には、もう死神はウグリナス邸に入り込んでいたのだろう。




『あああああ!!』




と警備兵の悲痛な叫びが、正面玄関から聞こえる。急ぎ、荷物を持ってこの家を脱出する。次々に聞こえてくる悲鳴に、心が痛む。




「僕のせいで、僕のせいで・・・。」




自責の念に苛まれるが、否応がなくスキルそれを打ち消す。そして、今は、動けという、本能を理解する。




 しかし、死神のこれ以上の殺戮に目を瞑ることができず、悲鳴が聞こえる場所へと向かう。




警告を鳴らすハンターセンスのギリギリの場所まで近づき、




「俺が、アキラだ!! 俺が狙いだろ!! 」




大声で、得体の知れない死神に向かって、言い放つ。




それに気付いたのか、悲鳴が止む。そして、何かがこちらに向かってくる。しかし、それは前回ほど、防ぎきれないものでは、なかった。




どうやら、向こうは手加減をしているらしい。なぜなら、私を生きたまま、捕まえなければならないのだ。




アクリバートンは、異邦人をほしがっている。そのことを見越し、自分の情報を流したのだ。




そして、僕は死神が斬撃を放つ瞬間を目に捉える。雨粒が、その姿を鮮明に現してくれる。




得体の知れない死神は、人であった。しかし、それは目視できないほど気配を殺した者である。




いくら気配を殺そうが、雨粒によって、姿が浮かび上がる。まるで、透明人間のように。姿が見えたことは、大きなアドバンテージになるかと思われた。




しかし、雨は僕の味方でも、死神の味方でもなく、中立の立場をとった。




死神は前回のように、コツコツと辺りを探ろうとせず、直接こちらに向かって斬撃を放つ。




「何!? 」




不意を突かれ、斬撃を喰らう。無数の切り傷から、血が垂れる。それでも、手加減により致命傷は避けれる。




間髪いれずに、また斬撃が来る。だが、何度も喰らったその技をギリギリのところで、防ぐ。しかし、鋭い痛みが全身を駆け巡る。




このままでは、ジリ貧だと思い、逃げるが、死神も追ってくる。できるだけ、人気があまりない川辺に逃げ込んでいく。




無関係な人を、これ以上巻き込みたくないという意志からであったが、この選択が、自分を追い込む形になる。




どうやら、死神はここの土地感があるようで、僕を逃げ場のない場所へと追い込まれる。




左右は背の高い壁を、後ろは濁流、そして、目の前には死神。斬撃が、頭上スレスレを掠る。もう降参しろとの合図だ。




壁を伝って逃げるのは、時間がかかるし、死神には敵わない。そうなると・・・。




「精霊さん、また付き合わすよ。」




そう言って、僕は濁流の中へとダイブするのであった。それを見越してか斬撃が飛んでくるが、予測不能な流れでそれを間一髪回避する。




この決断で、僕は生死の一かバチかの大勝負に出るのであった。どこかに流れ着いてくれと切に願うのであった。

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