162.アキラ、明かす。
敗北の味が、口いっぱいに広がる。しかし、その味に胸が詰まりそうになるが、異世界の力がその味をわからなくする。
感傷に浸っている場合では、ないということか。今、取れる最善の方法を考えて、決断する。
「アクリバートンには、僕じゃ敵わない。見つかる前に逃げなきゃいけない。」
精霊さんに、今の僕の気持ちを伝える。
「・・・賢明な判断です。」
理性的な判断だろう。もっとチートな能力があって、前の僕なら、戦いを挑むこともできるだろう。だが、僕は、死の淵を見てしまったのだ。
今は、その恐怖と理性が、戦いを避ける方針へと僕を導く。今すぐに、ここを逃げなければと、気持ちが急かす。
「宿主、落ちついてください。今は、身体を癒す以外選択肢がありません。」
そう精霊さんが、諭す。そうだな、満身創痍な僕がいくら足掻いたところで、この怪我じゃ満足に、移動もできないと思い、死を覚悟しながらも、今出来ることを考える。
「皆を・・・呼んで。」
今こそ、この仮面をとって、正体を明かす時だ。そう考える。
しばらくすると、ユラや、ユダイさんがやってくる。僕は皆に対して、初めて仮面を取る。そして、自分の本当の正体を明かす。
「じゃあ、あなたがあの異邦人でしたのですか。」
ユダイさんや他の2人も驚いた様子で僕を見る。そして、僕は、ここに来るまでの経緯、昨日起こったこと、そして、これからの作戦を伝える。
まずは、ユラとリーシェには、王都、アルトリスに南を迂回して、向かうように行ってもらう。
あそこなら、テラたちが居て、王都の警備の厳重さから、ここよりは安全だと考えて、避難するように説得する。
彼女らは、それを了承し、すぐに出立してくれた。別れ際、彼女に伝言を託す。
「いろいろと、ごめん。」
そう伝え、彼女を見送るのであった。それと同時に、ユダイさんには、行き先の違う馬車をできるだけ、多くいろいろな場所へと向かわせるように、手配してもらう。
彼女らがアクリバートンの捜索網に、可能な限り引っかからないようにするためである。
次に、僕の正体を周囲の人間にバラす。その際に、居場所はバラバラに教え、味方陣営の中にいる裏切り者を炙り出す。
敵は2日間、動いてこなかった。その間に、身体はスキルや、精霊さんの適切な処置のおかげで、自力で歩けるようにまで回復する。
どうやら、情報の錯綜し真偽を確かめるのに、手こずっているようだ。その間に、僕はこの街を、離れる準備に取り掛かる。
進路は北、まさに敗北者に相応しい方角である。
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