89.アキラ、平常心。

 この日も両腕にやわらかな感触を感じながら、興奮してなかなか寝付けずにいた。




二夜連続でこのような体験をすることになるとは、異世界さまさまである。




どうせ、眠れないのならこの状況を楽しもうと、昨日と同じような作戦をとる。




モゾモゾとテラの身体が動く。い、今、動かれたらまずいですよ! と思いも虚しく、まるでテラの身体をまさぐるが如くの感触がやってくる。




理性君が9割が吹っ飛んでいくのがわかる。しかし、残りの1割君が踏みとどまり、なんとか感情が爆発しないように耐える。




藁にもすがる思いで、気持ちを紛らわすために平家物語を暗唱する。




「娑羅双樹の花の色、 盛者必衰の理をあらはす。」




不思議と気持ちが賢者のような気持ちになる。




昨晩のようなやわらかさはないが、これはこれで風流なり。という感想が、出る。うん、悪化してないか?




すると、精霊さんが、呆れた口調で、




「宿主、ハンターセンスのレベルが上がり、新たなスキルを習得しました。スキル【平常心】です。よかったですね。」




ナイスタイミングと思う。不思議と心が落ち着き、このような状況でもリラックスして眠れるのであった。




 いや~、よく寝たと思い目を開ける。他の皆はすでに起きていて、朝食の準備をしている。イリスが起きたことに気付き、こちらに近づき




「おはよう、よく眠れた?」




と聞いてくる。HAHA!! 君たちのおかげでなかなか寝付けなかったけどね。と思ったが、まぁ気持ちよかったから不問として、




「君はよく眠れた?」




冗談まじりで質問を投げ返す。すると、イリスは顔を赤くしながら、




「なんだか、安心してよく眠れたわ。」




少し恥ずかしそうに答える。




思っていた反応と違うのに、少し戸惑うがスキル【平常心】さんの効果により、割とすぐに正常に戻る。




このスキル、狩りで役に立ちそうだ。それから、朝食を食べ始めるのであった。




 今日も木を切りに出かける。




「モリモリゴー、モリモリゴー。」




軽快なリズムで進んでいく。




今日も今日とて一本、木を切っていく。




今回は森に入ってすぐの所に大人の肩幅ほどのいい木があったので、これを切っていく。




昨日と同じやり方で作業をしていく。昨日とは違い、少しスムーズに作業が進行していることを実感する。




この調子ならと思い、気合いを入れて作業を進めていくのであった。




三角形の切り込みを入れることに成功し、後は反対側に回って木を本格的に切っていく。




休憩なしで今までいけていることに驚きつつも、慢心は命取りと自分に言い聞かせ適当なところまで、一心不乱にキコキコとのこぎりを前後に動かす。




木がグラついてきたら、慎重に切る。そして、パキパキパキパキと音を立てて、木が倒れる。




あとは邪魔になりそうな枝を切り、昨日と同じようにエッサホッサと木を運ぶのであった。




2回目ともなると、皆、驚く様子もなく無言で手伝うのであった。

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