第六章 花々

52.アキラ、また嵌められる。

 身体の節々が痛み、目が覚める。今回で二度目なこともあり、前回ほど痛みは強くない。


「あの決闘、俺が勝ったっでいいのかな。」


結果を聞いてないこともあり、少し不安にもなるが、今は生きていることに喜びを覚える。


「五体満足・・・一時はどうなるかと思ったけど、生きててよかった。」


と独り感傷に浸って、自分が置かれている状況を確認する。


今いる部屋は、とても豪華で広い部屋だ。


誰かの部屋を借りたのだろうか、寝ていたベッドの近くに、イスがふたつ置かれていた。


一人はテラだとわかるが、もうひとりは誰だろうと考える。


ふと、足音が聞こえ、ドアの方を見る。僕のことを気遣ってかドアがゆっくりと開く。


現れたのはイリスだ。僕の姿に一瞬驚くが、すぐに落ちつき気品ある振る舞いで僕の近くに寄ってくる。


そして、深々と頭を下げる。


「今回は国の未来を救っていただき、感謝の気持ちでいっぱいだ。本当に本当に、ありがとう。」


目に大粒の涙を溜めているのが、見てとれる。


「顔を上げてよ。これでも一応婚約者だからさ、やるべきことをやっただけだよ。でも、これで晴れて約束通り、婚約者解消だね。」


と、照れ臭くなりながら答える。


イリスが少し笑ったのを感じ、こちらも笑う。


昨日とは違い、自分の責務から解放された彼女の、本来の姿を垣間見れた気がした。


すると、イリスが決闘でのことを質問してくる。


「どうして、最初の電気の一発が効かなかったのに、二回目は効いたの?」


と試合中に、疑問に思ったことを聞いてくる。僕は少し照れくさくながら答える。


「それは、まぁ君のおかげでもあるんだ。


アルディカの水魔法は純水でできていて、最初の一撃はそれにより電気が水を通らなかったんだ。


でも、イリスからもらった塩を相手に投げて、それにより水分中にナトリウムイオンとマイナスイオンが発生して、電気を通しやすくなったことによりあの一撃が届いたんだ。」


と説明するが、この異世界では、それほど科学は発展していないため、あまり通じてないことが見てとれた。


僕は考える。そして、


「塩が水に入ったことにより、電気が通りやすくなった。塩を渡してくれたイリスのおかげで勝てたよ!!」


と途轍もなく端折って説明したところ、なんとなくだが理解してくれたようだ。なんだか少しお顔が、赤くなっているような気もするが、今は置いておこう。


決闘後の後を聞いてみると、


「決闘はアキラの勝ちで終わったましたけど、その後、アルディカがこれは無効だとか言いだしました。


「私はあの少年の口車に乗せられて、好機を逃した! これは無効だ」


でも、お母様・・・、女王陛下がその弁がたつことも持てる力の全力ではなくて?それにその弁であなたも、この婚約を取りつけたのではなくて。


と反論したら黙り込んじゃって。これで勝者はアキラに決定したの、それにより正式な結婚相手は、アキラになったのです。なったのです。」


引っかかるところがあり、僕はそれに突っ込む。


「ん?なぜ、二回言うのだ、それにこれが終わったら婚約解消が果たされるじゃなかったか?」


 イリスは、ニヤりと笑い、


「婚約は解消されて、今度は正式に結婚をすることになりましたわ。だって、婚約は解消するとは言ったけど、結婚は解消しないとは言ってないじゃない。」


また、嵌められたよ、トホホに思いながらも嬉しそうに喜ぶイリスの姿に、最悪の状態を避けれてよかった、と思うアキラなのであった。


しかし、その後ろで恨めしそうにしているテラの姿に気付くのは、ほんの少し先の話である。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る