第四章 氷君

31.アキラ、滑る。

 逃げ切ったアキラは、考えていた。


どうやって、置いてきた鹿肉を、取り返そうか。


あの鹿肉は、あんな女に渡すために狩ったわけじゃない。大事な大事なテラのために、獲ったものだ。


しかし、あの女からは、変な氷は出てくるし、飛ぶし、剣は使うわで、分が悪すぎる。


そう考え、一度、憎悪の感情を排除して、冷静に考える。


なぜ、ここに人がいる。そして、なぜ氷を出せる。それにあの容姿、テラとは違い、耳がなかったように見えた。


「一体、あいつ何者なんだ。なんだか殺気立っていたいし、でもこの森で動ける人、初めて見た。


その点においては、なんとしても聞かなくてはならないと思っているだけど、精霊さんはどう思う?」


と精霊さんに意見を尋ねると、


「宿主の意見に、概ね同意します。ここで動けるという点においては、宿主と同じような体質なのかもしれません。」


精霊さんの意見にふと、気付かされる。


「ってことは、俺と同じような体質ならば、俺と同じように精霊と共生しているってことも言えるんじゃないか。そして、俺より自然魔術の習練度は上である。」


精霊さんは


「その可能性も否定できませんが、注意は必要でございます。」


と答える。確かに、あの飛び道具は厄介だ。それに今の目的は、奴を倒すことではなく、鹿肉を取り返すこと。


もしかすると、さっきの場所に、そのまま放置されているかもしれないと考える。そして、僕は態勢を整え、先ほどの場所へと向かうのであった。


 気付かれないように、身を屈め隠密的に、鹿肉のあった場所へと近づいていく。


すると、ほのかに香ばしい匂いが食欲をそそる。はぁ?おい、待てよ、まさか!! その嫌な予想がする匂いは、風上に向かっていくほど確信に変わっていく。


少女が、なんと火を焚き、シカ肉を焼いているのであった。その肉の出所は、私が狩った鹿肉からであった。


「あの小娘!! 」


私は、静かに怒る。


だが、肉は半分ほど残っている見たところ、まだ食べ始めてはいないようだ。


ここは交渉して、半分を持ち帰ろう。


そう思い僕は木陰からわざと見えるように出てきて、交渉へと望む。


少女が、剣に手をかける。随分と警戒されている。そりゃ、そうだな。


「私は、あなたと戦うつもりはありません。その鹿は、私が獲ったものです。どうか返してください。」


少女は、黙ってこちらを睨みつけて、品定めをするようかの目をする。


持っている弓や矢、ナイフを見えるように捨てて、敵意のないことを示す。その瞬間、少女の方から氷のつぶてが飛んでくる。


「精霊さん!!」


身体に電気が通り、身体がつぶてをよける。容赦のない女だなと思う。


「まだ信じてもらえませんか。私はあなたを襲う気はありません。その鹿肉はくれてやりましょう。しかし、内臓と半分の肉は返していただく、それは僕の大事な人のために獲ったものだ。」


と言うと、少女はあぁ、これかという表情をして、布を僕の方へ放り投げる。それを目で追いキャッチする。


その瞬間、また氷のつぶてが不意をうち飛んでくる。今度は頭を掠め取る。


髪の毛が何本か、ひらひらと土に落ちる。


「あなた、本当に私を狙ったものではないのか。」


と問いかけてくる。


「ええ、あなたを動物かと思って、射てしまったようです。その件につきましては、申し訳ない。」


と言いながら、まだ沢で、冷却されている鹿肉の方へと歩いていく。しかし、僕の目は彼女を見据えながら、警戒しながら一歩ずつ歩む。


彼女もまた僕を見据えて、いつでも、つぶては撃てるぞというオーラを出している。


「これももらっていきますよ。半分はお詫びというわけで食べてください。」


「もらいましょう。」


と即答で彼女は、笑顔で答える。微かに信頼が、芽生えようとした瞬間であった。


だが、距離をとろうとして、離れようとした瞬間、沢の石に足を滑らせて、川へダイブする。


突然の行動に、少女のは思わず笑う。


僕は、恥ずかしさのあまり、そのまま顔を上げることができなかった。

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