32.アキラ、感じる。

 「えぇ・・・そんなに笑う・・・。」




と僕は困惑しながら、少女に問いかける。すると、少女は申し訳ないと謝りながら話しだす。




「申し訳ないです。まさか、あなたがこの状況下で滑って、沢に飛び込むとは思わなくて、不覚にも笑ってしまったのです。あ、また笑いが・・・。」




その姿を見て、




「嗚呼、もう好きに笑ってもらって、構いませんよ。」




と笑うことを許す言葉を出すと、少女は笑みをこぼしながら笑った。そして、収まったのか凛として話し出す。




「コホン、何分、久しぶりに笑ったので、少々取り乱してしまいました。私、イリスと申します。先ほどの無礼お許しくださいませ。ところで、今、焼いているお肉は、もう食べても大丈夫なのですか?」




嗚呼、そうだった。イリスが、肉を焼いている途中なのを、すっかり忘れていた。




精霊さんに




「もう良い具合に焼けたと思うんだけど、大丈夫かな?寄生虫とか怖いし?」




と聞くと、




「もうちょっと、芯に火が通るまで焼きましょう。宿主に死なれては私も困ります。」




もう少し焼くように指示が出る。




「嗚呼、もうちょっと焼こうか。」




とイリスに言うと、物ほしそうに肉を見ている。まぁ、そう焦るな焦るな。となだめる。




「いい頃合いでしょう。」




と精霊さんが言うと、ふたり一緒にシカ肉を食べ始めた。




「あら、おいしい。」




とイリスが言う。僕も感想は同じである。それからしばらく、無言でシカ肉を食べるのであった。




 腹が膨れ始めた頃、食べ終わったイリスが、僕についていろいろ質問してきた。




「ところで、お名前は?」




「あ、アキラです。どうぞよろしく。」




「なぜ、このような場所に、王都とか大分離れているように、お見受けするのですが、この者ではありませんよね。」




早速、僕の核心に迫る質問をしてくる。




村長の一件以来、山から来たということは、秘密にしといた方がいいと考えていた。僕は咄嗟に、




「旅の者です。」




と答えてしまう。しかし、イリスの観察眼は鋭かった。




「それにしては、やや軽装備でありますね。本当に、旅のお方なのですか?」




と鋭い指摘をされる。しかし、




「まぁ、私も素性は明かせない身、お互いに秘密を持っているということですね。」




とあっさり諦めてくれる。




なんとかバレずに済んだと思うアキラであったが、どうもイリスも訳ありのようだ。




こういうのは、関わってしまうと碌なことにはならないと本能が語りかける。




「ハンターセンスの習練度が上昇しました。」




ほら、精霊さんもそう言ってるし、関わらない方がいい。この時は、まだこれから起こる出来事に、第六感も気付いてはいなかった。

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