30.アキラ、逃げる。
川上の方から誰か来る音がして、アキラは岩陰に咄嗟に隠れる。精霊さんが、
「良い判断です。」
と言ってくれる。精霊さんはずいぶんと余裕そうだ。僕にはそんな余裕はないので、岩陰から音の正体を探る。
「ガサガサ、ガサガササ。」
段々と音が大きくなってくる。クマか?イノシシか?と音から正体を探ろうとする。しかし、藪から出てきたのは、可憐な美少女であった。山に相応しくない上品な黒髪、見るものを虜にする透き通った肌、可憐でどことなく傾国な危うさがある瞳、テラとは正反対の美しさがある人だった。しかし、突然現れたことや緊張状態、森で出会うのは獲物という先入観、それらが不運にも重なり、条件反射で弓を引いてしまう。そして、
「あっ。」
矢を放ってしまう。その瞬間、まずいと思う反面、
(嗚呼、これは、直撃コース。)
と冷静に見る僕がいることに驚きつつも、大声をあげる。
「避けろ!!!」
その声に少女は反応するが、一瞬間に合わない。異世界来て、人殺しを達成してしまうかと思った矢先、矢が何かにぶつかり直角に落下する。
「誰だ!!」
と少女の凛とした覇気のある声が周囲に響き渡る。思わず、両手を上げ
「はい、撃たないで、故意じゃないから」
と懇願する。少女は持っている剣を取り、間合いを詰めてくる。無言のままに、段々とこちらに向かってくる。本能的に逃げなければと思えてしまうほどの恐怖を身に纏っている。例えるなら、熊である。この森の頂点だと言わんばかりの圧倒的威圧感が彼女から出ていた。しかし、近くには、テラのために狩ったシカ肉があるのだ。なんとしても、誤解を解かねばと思い、
「待って、本当に誤解だから、ねぇ聞いてよ!!」
岩場の陰から懇願する。だが、少女は止まらぬ、一瞬飛んだかと思うと、何かを踏み台にして、空中を駆けてこちらに向かってくる。そして、僕の頭、目掛けて剣を振り下ろす。
「これ死んだ、無理だ死んじゃう、助からぬ。」
と思った瞬間、精霊さんが
「宿主、諦めては駄目ですよ。」
と言い、僕の身体に電流を流す。その電流により、身体が反射的に動き間一髪のところで剣を避ける。しかし、二撃目が来ることが予測できた。精霊さんはさらに、
「宿主、少し痛みますよ。」
と容赦のない言葉を投げかけ、また電流を流す。今度は、避けた剣を触るかの如く手が動く、そして、
「ビリビリビリ!!」
身体を痛いくらいに電流が流れる。その電流が剣を通して、少女にも流れる。二人とも大声を上げて、倒れる。しかし、精霊さんは容赦なく、倒れた僕の身体に電流を流し続け、コントロールするが如く身体を操り、この場から立って逃げようとする。
「宿主、もうすこしの辛抱です。」
と精霊さんが言った瞬間、何かが飛んでくる音がする。そして、血が滴るのが見える。小さなつららが頬を掠めたのだ。
「うわぁ、痛ぁ!」
と言いながらも、なんとかその場から鹿肉を忘れながらも逃げることに成功するアキラなのであった。
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