第二章 共生
Ⅸ.アキラ、察する。
テラが、料理を作っている。その後ろ姿を、僕は見ている。
「モリモリゴー、モリモリゴー。」
とテンションが上がったのか、その歌を口ずさみながら料理を作るテラを僕はただ見ていた。
「あの歌、僕が教えたことあったっけ?」
と疑問符が湧き始めた時、テラが振り向き
「ケムペーラ」
と呼んでくれる。
テラの介助で、食事を食べるアキラ。定番に成りつつある光景である。
しかし僕は、今こそ改革が必要な場面であると考えるのであった。
覚悟を決めて、自分でスプーンを取り食事を掬おうとした瞬間、テラの眼つきが変わる。
まるで、死んだ魚のように、恨めしそうに残念そうな目をする。
(そんな目をしないでよぉ・・・。まるで、僕が悪いみたいじゃないか~)
行き場を失ったスプーンは、動かざるごと山の如し、正確にはフリーズである。
この後の行動でテラの機嫌は変化する。
この些細な変化は、言葉が通じないという言い訳のできない状況下では、破滅を招くということを彼は理解した。
もしも、これでテラの機嫌が、損なわれ些細なことで喧嘩でもなったら、気まずい。
そして、誤解が解けないことは、今の関係を維持できないことを意味する。だからこそ、ベストな解決方法を探さなければならない。
このまま、スプーンに口をつけるということは、テラの助けはいらない、という意思表示にも受け取られかねない。
しかし、生きて居られるのは、テラがいたからこそである。テラはこう思うだろう、茶番に付き合っていた。
原因は、僕の優柔不断が招いた結果であるが、かといってスプーンを戻すということは、完全なる介助を受け入れることになり、今後もこの状況が続くということだ。
それだけはなんとしても、防ぎたい!! まだ僕は自分で食べることができるんだ!!究極の二択を迫られた・・・考えろ! 考えろ!!
ふとテラの生気のない瞳に映る僕を見る。あったぞ。第三の選択肢!!
僕はおもむろに、具が乗ったスプーンを彼女の方に向ける。テラがそれに気付き、具と僕を見て考えこむ。それから目を瞑り口を開ける。
開運ひらけたぞ!そこに僕は、そっとスプーンを置く。嬉しそうに食べるテラである。
そんな姿を見つめながら、僕は彼女がずっと独りだったのではと、思い始める。今思えば、テラ以外の人間を見かけていないことに気付く。
だからこそ、こんなに過保護になるのでは、と仮説を立てるが言葉が通じない現状では確かめることはできなかった。
そう考えながら、僕は無意識にスプーンを掬い野菜を食べるのであった。
(あ、食べちゃった。)
と完全勝利をいとも簡単に手にするのであった。
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