Ⅵ.アキラ、空を仰ぐ。
黒き天使は、久しぶりの獲物に血を滾らしていた。仕留め損ねた女は弱り切っており、もう一匹の男は抵抗しているがもう袋小路。じっくりなぶっていけば仕留めれる。
そんな畜生の如き考えを巡らせながら、黒き天使は翼を羽ばたかせて漆黒の羽根の弾丸を乱れ撃つ!! 男は女を庇うかのように背を向けてそれを受け止める!!
「----」
撃つ!! 撃つ!! 撃つ! 撃つ撃つ撃撃撃撃撃撃撃撃撃撃撃撃撃撃撃撃撃撃撃撃撃撃撃撃撃撃撃撃撃撃撃撃撃撃撃撃撃撃撃撃撃撃撃撃撃撃撃撃撃撃撃撃撃撃撃撃撃撃
黒き天使に容赦などない。荒れ狂う空腹を満たす。その欲望を満たすため、鳥獣は合理的に行動する。容赦などという無駄な感情はない。
「----」
手ごたえを感じた黒き天使は、翼を羽ばたかせるのを止める。あとは、待つだけ・・・。もう命の駆け引きは決した。故にここで、余計な体力を消耗する必要はない。
獲物が弱っていく様をじっくりと待つことにした黒き天使。まだ獲物は、息絶えていないのに勝利は揺らぎようのないものだと浅はかに確信していた。
「----」
男は赤黒く染みわたる背を向けたまま、動かない。空腹な食望が、滾り始める。醜いくちばしの中で舌が蠢く。
だが、 その合理的判断から生まれた隙が、黒き天使を知らず知らずにうちに追い詰めていく。
黒き天使は、弱った獲物達を啄もうとした瞬間!!
男がこちらを向いて、一矢報いようと足掻いてくる!!
一瞬また意味のないことの繰り返しかたと思うが!!
その手には、白い何かが握られており、
その男の目には、暑く燃えたぎる不屈の意思!!
「バッテリーは一個!! 頼むぞ!! 」
男はそう言って、それを地面に叩きつける!! 何度も何度も・・・!!
それに黒き天使の醜い生存本能が拒絶し嫌悪する!!
だが、何をしても聞かないと目の前の人間を黒き天使は、見誤る。
その時! 運命の賽は投げられ、最後の一撃が解き放たれる!!
黒き天使は、愚かにもそれを避けようともしなかった。
どうせ利かぬ!無意味な足掻きだ!
その思考を読み取ったが如く男はニヤリと笑う。
その瞬間は突然やってくる!! 白い何が微かな煙ののろしを上げる。その微かな放熱は次第に強さを増していく!!
『パチパチパチ・・・。』
運命の車輪は廻り出す。
チャンスは一回!! 行けるか!! いや、やるしかないだろ!! 生きるしかないだろ!!
運命の賽を構え、誰かを守るため、何かを傷つける!! その事実を受け入れて、僕は、生きる!! 生きたいんだ!!
すべてをこの一撃に賭けて!! 解き放つ!!
「届けぇえええええええええええええ!!! 」
生きたいと願望は、真っ直ぐに天使へと向かっていく!!
『シュゥゥゥウウウウウウウウウウウウウウウウ!!! 』
轟く轟音を響かせ!!
烈火爆音!!
そして、硬い翼に命中し、
瞬間、爆火!!!
その魂の炎は、不屈の意志が乗り移ったの如く、奴の身体を包み込む!!
『ガァァァァァァァァアアアアアアア!!! ガァァァァァァアアアアアアアアアア!!! 』
黒き天使は気がつけば、目の前が真っ赤な色に染まる!! 身体中に痛みが駆け巡る!!
熱い!! 熱い!! 身体が焼ける! 焼ける!
激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛
なぜだ! なぜ燃えているのかも黒い天使は理解し得なかった。
黒き天使は天に帰るかのように空へと飛ぶ!!
空高く、狂乱が黒き天使の心を支配する。
紅蓮の炎に包まれた黒き天使は、空を狂乱しながら舞う。それはまるで、火の鳥の如き様相である。そして、身を焦がされながら、灰のように白く成れ果て、天使は地獄へと地獄へと叩き落とされるのであった!!
僕は成し遂げた!!
知恵の勝利!! 知識の勝利!! 叡智の勝利!!
そんな喜びも束の間、自分の背中の痛みなど忘れて、テラを抱きかかえて、走る!! 動く!! 駆け抜ける!! 彼女を一刻も早く家へと連れて帰ってあげなくては!!
彼女を助けたい!! その強き思いが僕の身体を突き動かす!!
∴ ∴ ∴ ∴ ∴
曇天の空から陽の斜光が照りゆき始めた頃、彼女は目を覚ます。なぜ自分がここに、わからないでいた。だが、すぐに彼女は悟る。
傍らには、自分を付きっきりで看病してくれた最愛の人。傷だらけのその姿になってもなお、自分のことを守り、助けてくれた人。
そう思えば、自然とテラの目から涙があふれる。その雫は、温かく気持ちが高鳴るものであった。
「アキラ・・・、グニブートィルキ。」
そう言って、彼女は静かに眠る彼の髪を撫でるのであった。
しばらくの後、僕は目を覚ます。いつの間にか寝ていたことに気付く。そして、背中の傷に刺さっていた羽根は、すべてなくなっていた。
手当てをしてくれた人を探せば、その人は元気よく台所に立っていた。
そして、僕が起きたことに気付き、駆け寄り抱きしめられる。
ああ、僕達は無事に生きている・・・。その実感を噛みしめながら、僕も彼女を抱きしめるのであった。
∴ ∴ ∴ ∴ ∴
その日の食事は、テラが狩ってきたウサギの串刺しであった。まだ若干のトラウマが残る命。それは、越えなければならない壁。
それをテラも感じとり、介助をしない。だが、心のどこかで幼い部分があったのだろう。その介助しないことに甘えてしまったのだろう、一向に僕は手を付けようとしない。
すると、テラの透き通った手がおもむろに動き、僕に向かって伸びる。いつもの介助である。
だがその行為にいつもとは違う意図を感じとる、母の愛ではなく母の厳しさである。
僕は嫌がる。
それでも、テラは無言のまま食べることを強いる。ついに僕が折れ少しだけ食べる。味気ない。
その一口で僕は食べるのをやめるが、それでも食べさせることをやめないテラ、その瞳に涙を溜めながら必死に食べさせようとする。
その姿に圧倒され、僕はまたひと一口、今度はしょっぱさを感じた。なぜしょっぱいのかわからないが、僕にはそれがおいしく感じ、また食べる食べる。
その瞬間、命あるものの上に僕たちは、立っていることを強く感じるのであった。
食べる頃には、ウサギは骨だけになる。生きていた命の包みに、深く感謝をし手を合わせる。
「ごちそうさま!!」
テラも後に続き
「ゴチソオサマ!」
そして、二人して顔を見つめ合うと自然と笑みがこぼれるのであった。
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