Ⅹ.アキラ、遭遇する。

 その日は、あいにくの雨だった。




『ザーー-ッ。』




と冷たい雫が大地に降り注ぎ、草木がそれを弾く音が聞こえてくる。




テラは藁のようなもので、草鞋を編んでいる。




その作業を見ててやってみようと思うと、テラに自分もやってみたいというジェスチャーを送る。




すると、彼女は心良く応じてくれた。でも、草履はまだ無理と思ったのか。別のことを手本に見せてくれた。




 まずは、藁を六本もち、一方の端を結ぶ。結び目を足の親指と人差し指で持ち、次に藁を三本づつ右手と左手で持ち、それを両手で合わせるようにして持つ。




この時に右手を手前に左手を奥にし、持っている藁束がが混ざらないように注意する。




擦るように、藁を捻じり右手と左手の位置を入れ替える。そして、緩みがないように引く。この作業を繰り返す。




藁が短くなってきたら、新しい藁を3本持ち少し長めに持ち、また同じ作業をする。ある程度の長さになったら、端を結び完成というわけだ。




これなら僕でもできそうだ。ふたりして、黙々と作業をしていく。もしも言葉が通じたのなら、雑談をしながら楽しく過ごすことができたのだろうか。




そう思いながらも同じ空間で、初めての共同作業に嬉しさを感じるのである。テラは、集中しているのか黙々と手を動かす。




だが、その顔には、笑みがこぼれているようにも見えた。




「テラ、ココ、んん?」




ともう丁度いい長さか聞く。




「ア~ムデリ、ブートィルキ。」




と頭を撫でながら、褒めてくれるようだった。




同い年くらいなのに、母性を感じる。




ウサギ狩りの一件以来、なにかと言えば目がテラを追いかけていることに、この時はまだ気付いていなかった。




これが好きなのか、もっと承認欲求からなのかは、まだ判断しづらく、向こうは僕をどう思ってるのかわからないので、この想いは秘めておくことにした。




 キリのいいところまでやると、テラが




「ケムペーラ、ケムペーラ。」




と終わった作業を片づけ始める。僕もあとに続く。




テラが食事を作っている時は、やることがない。料理はテラにまかせっきりである。




調理スペースはそんなに大きくないので、僕がいると返って邪魔になるし、人間には得手不得手があるので、これは正しい判断である。




別に、料理が下手というわけでは断じてない。多分。




 ふと、外の雨音に耳を澄ます。すると、微かだが




『ピッー!!』




と鷹のような鳴き声が聞こえる。




雨の時に行動するモンスターかとふと思う。すると、次の瞬間、雷鳴が轟き遠くの方で雷が落ちる。




「キャッ!!」




とテラが驚く。僕も内心は驚き、心臓が飛び出るかと思った。ふたりして、顔を見て笑うのであった。




 その夜は、寝苦しかった。




いつもならすぐに眠れるはずが、今日に限って目が冴える。寝付けない、テラの方を見ると、スッーと可愛い音を出しながら眠っている。




雨は止んだろうか、と不意に外に出たくなる。




外に出ると雨は止んでいたが、夜空は厚い雲が覆っているようであった。まっくらな闇、はるか彼方で一筋の閃光が駆ける。




「おお、雷はまだ降っているのか。」




とぼぉーと見ていると、地面に落ちたと思った閃光が、空へと駆け上がる。




そして、段々と大きくなってくるではないか!


 


気付いた時には、もう遅かったその光の中から現れたのは、大きな大きな鷹と化した稲光であった。




そして、その光は少年に向かってくるのであった。

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