第2話 異変

仕事にも慣れ始め、ご利用者様の介助も独り立ちもさせてもらった頃。


まだ自信がなかったせいもあるのだろう、周りの職員同士が声を潜め話をする姿、笑っている姿がやけに目につくようになった。


『自分の事を言われているのではないだろうか…』

『自分の今の行動を笑われているのではないだろうか?』


元々、義務教育時代から高校といじめられていたせいで、やけに人目を気にする節はあり、裏切られた事も数しれず万人に好かれようと、嫌われないようにしようと人目に敏感な節はあった。

だから

「面倒な性格だなぁ」と、さしてあまり気にもしていなかったが、これが引き金となり、仕事に次々と支障をきたすようになる。


質問があっても

『これを訊いたらどう思われるだろうか

?』


次はこれをしよう、と決めていても

『でも、これを今したらどう思われるかな?』


そんな考えばかりが頭を過ぎり、思うように動けずに仕事が進まず、何をしようかとまごついている内に時間が押して、他の人に迷惑をかけてしまっていた。


「もっと時間考えて動いて!」

「時間かかりすぎ、回転考えて!」


分かっている。分かっているけど、出来ない。

頑張って足を手を動かそうとしても、動けない。怖い。


周りの笑い声、周囲の声を潜めた話し声。

チラチラとホールを見渡すように動く目。

全部が全部、自分のことのような気がして。


『そんな事ない』


自分の中で、そう結論づけても、嫌でも入ってくる声、視線。


『私が…なにかした?』

『私なんか居ない方が…』


そんな考えばかりが、頭を支配するようになった。

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