星の匂い


 春が訪れる前の日。

 それは永遠の夜。


「空の向こうに、世界の果てに、見せたいものが沢山あるんだ」

「嬉しいな。一緒に行けたら、素敵だね」

「ああ。そうだな」

「ナナシ」

「約束する」

「嬉しい」

「オレはさ」

「なに?」

「ナナシって名前が好きだ」

「うん」

「キミがつけてくれて、良かった」

「うん」

「生きていくよ」

「……うん」

「幸せだった」

「……うん」

「……」

「……明日が」

「……」

「ずっと来なければいいのに」

「明日は、来るんだ」

「そうだね」

「オレは」

「ナナシ」

「ここにいるよ」

「うん」

「ルニミィア」

「どうしたの?」

「星を巡るよ。オレはさ」

「……うん」

「煙草は吸いすぎない」

「そうだね」

「人に優しくする」

「優しいよ?」

「汚い言葉は、極力使わない」

「大丈夫だよ」

「できるだけ、笑っているよ。キミみたいに」

「笑顔だと、笑顔が返ってくるからね」

「怪我はしないようにする」

「もう、だいぶ傷だらけだものね」

「半分しか見えない」

「青い目、緑の髪」

「青い髪、緑の目」

「自分のこと、ちゃんと解るようにする」

「自分の気持ちに鈍感だものね」

「そうだったな」

「でも、嬉しかったよ」

「そうか」

「そうだよ。えへへ」

「名前」

「うん」

「呼んでくれないかな」

「いつでも呼ぶよ。ナナシって」

「嬉しいな。何でこんなに嬉しいんだろうな」

「私も、ナナシが名前を呼んでくれると、嬉しいもの」

「そうか」

「そうだよ。知らなかった?」

「鈍かったからな」

「そっか」

「みんながルニって言うけど」

「うん」

「ナナシは、ルニミィアっていつも呼んでくれる」

「名前」

「うん?」

「オレには名前が無いから。大切にしないと」

「そっか」

「付けてもらった名前、一番の宝だと思う」

「嬉しいな」

「オレも嬉しかった」

「えへへ」

「そういえば、いつから?」

「わかんない」

「そうか」

「居ない時に、寂しかった」

「ごめんな」

「いいんだよ」

「勝手にベッドで寝てたよ」

「だから花の匂いがしたのか」

「気付いてたんだ」

「キミの匂い」

「ナナシは煙草の匂い」

「煙は嫌いだったな」

「煙たいもの」

「それもそうか」

「そうだよ」

「ははは」

「あはは」

「ナナシ」

「うん」

「向こうで、待ってるね」

「……ああ」

「……」

「たくさんの土産を持っていくよ」

「……」

「だから、待ってて」

「……うん」

「……」

「……」

「ルニミィア」

「ナナシ」

「……」

「……」

「……」

「……」  

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