第42話 俺は今でも・・・

「・・・この公式は基本中の基本だからぜーったいに忘れないでねー」

 4時間目終了のチャイムが鳴って、野花のばなみなみ先生がこう言ったところで授業は終わりとなった。

 今日は1時間目の天北てんぽく先生の日本史に続いて、2時間目は1組担任の空知そらちふとし先生の英語、3時間目は1組・2組合同での男女別の体育(当たり前だ)で男子は1年8組担任の北母子里きたもしり先生、女子は1年7組担任の鬼志別おにしべつ先生が担当、4時間目の数学Ⅰは3組担任の野花のばな先生が担当した。蛇足だが午後の5時間目は5組担任で学年主任の清水沢しみずさわ先生の物理、6時間目の現国は4組担任の東室蘭ひがしむろらん先生、あー、いや、西室にしむろ先生だった。7時間目は6組担任で学年副主任の茶志内ちゃしない先生の化学だ。

 当たり前だが小学生みたいな可愛い先生に男子も女子も熱狂して、早くも女子からは「南先生と呼んでもいいですかあ?」などと喝采を浴びていたけど、小学生みたいな先生にも関わらず全国に名を知られた清風山せいふうざん高校女子柔道部の顧問で、自身も柔道三段で高校2年の時に高校選手権女子48kg以下級で優勝、インターハイは1年生と3年生の時に準優勝。それ以外にも大学時代は国体に出場経験があるというのだから、その話を聞かされた時には「うっそー」「マジかよ」とクラスの連中がどよめいていたけどね。

「それじゃあ、この後は楽しい楽しいお昼休みだからねー」

 おいおい、こんな喋り方をされたら逆にテンションが下がりそうだけど、たしかにここから50分間の昼休みになって、食堂へ行くもよし、購買でパンを買うもよし、教室で自宅から持って来たお弁当を食べるもよし、とにかく自由時間というか息抜きの時間だ。野花南先生がそう言いつつ教科書とファイルを教壇の上で「トントン」と整えてから教室を出ていくと同時にクラスの連中は授業モードから昼休みモードに早変わりし、急に教室内が賑やかになった。

「キョーゴくーん」

 俺は千歳ちとせさんよりも先に隣の席のしずかさんから声を掛けられた。

「はーい」

「もしよければ一緒に食べない?モチ、千歳ちゃんも一緒に」

「俺は構わないけど、千歳さんはどうなのー?」

 そう言って俺は後ろを振り向いたけど、千歳さんはニコッとしたかと思うと「いいわよー」と言って立ち上がったから異論はないようだ。でも、その時にシンタ君が「おーい、キョーゴ」と声を掛けてきたから話の流れで俺・千歳さん・シンタ君、静さんの四人で行く事になった。

 俺の横には千歳さんがサッと並んだから、シンタ君と静さんが俺たちの前を歩く形になった。その二人は互いに何かを話してるようだけど、さすがに俺たちには会話の内容までは聞こえてこない。

「・・・兄さん、あの二人、結構雰囲気良さそうに見えるけど」

 千歳さんが歩きながら耳打ちするように小声で言ってきたけど、顔は半分真面目、半分笑っている。

「そうかなあ、俺にはそんな風には見えないけど・・・」

「兄さんは女の子の心の内を読むのが下手なだけですよーだ」

「・・・・・」

 たしかに俺は千歳さんの指摘通り、女の子の心の内を読むなどというのが全然できない、いや、読む以前に相手が何を考えて俺のところへ声を掛けてきたのか、何を考えて俺の方へ来たのかも全然分からない。

 俺は今でも千歳さんが俺の横でニコニコしている意味が正直言って分からないのだから・・・



 そのまま一日が平穏に(?)に過ぎて次の日になった。


 昨日と同じく父さんと母さんは既に出勤しているから、家の中にいるのは俺と千歳さんだけだ。

 俺も千歳さんもテレビを見ながら寛いでいるが、見ているのは朝の情報番組だ。

 丁度占いのコーナーをやっているのだが、俺と千歳さんの星座である双子座はなかなか出てこない。


『・・・ごめんなさーい、今日最も運勢の悪いのは双子座のあなたでーす』

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