第40話 どうでもいいレベル?

「・・・それでねー、その時キョーちゃんはさあ」

「うっそー、そんな事を兄さんは言ったんですかあ」

「そうよー。まさに中二病よねー」

「アホ丸出しね」

「ホント、男の子の考えてる事は分からないわねー」

「だそうですよ、兄さん。いえ、キョーちゃん」

 そう言って先輩と千歳ちとせさんは俺の方を揃って振り返って『ニコッ』とした。

 千歳さんと姫川ひめかわ先輩・・・美園みその先輩と言った方がいいのか、それとも今まで通り姫川先輩でいいのか、俺にはどっちが正しいのか分からないけど、とにかく俺の家を出る時からずうっと二人が並んで俺の前を歩いている。

 入学2日目にして『1年生ナンバー1』と認定された千歳さん、2年生・3年生の先輩たちが『2年生ナンバー1』と言ってはばからない先輩。その二人が仲良く並んで歩いているのを俺はその1メートルくらい後ろから見ているのだが、どう見ても仲の良い友達同士が並んで歩いているとしか思えないくらいに打ち解けているし、互いに番号とアドレスを早々に交換し合っている。

 ただ・・・何故か先輩は俺の事を『キョーちゃん』と呼んでいる。これもまた意味不明だ。俺としては超がつくほど恥ずかしいから正直勘弁して欲しいけど、千歳さんまで調子に乗って『キョーちゃん』などと言ってる。

「・・・うっそー、さすがお嬢様中学校ねー」

「でしょ?共学だったら有り得ないでしょ?」

「ホント。まさに女子校ならではよねー」

「今となってはアホらしいけど、当時はマジだったからねー」

 学校に近づくにつれて清風山せいふうざん高校の制服を着た人が多くなったけど、一様に驚きの目をしている。そりゃあそうだろうな、1年生と2年生のナンバー1が二人揃って歩いている場面に出くわすなど、誰が想像しただろうか、しかも今日は入学式の翌々日である。男子は歓喜の表情をしている人が学年を問わずいるけど、女子は非常に複雑な表情をした人が大勢いる。まあ、俺もその気持ちが分からない訳ではないけど。

「キョーゴくーん」

 いきなり後ろから声を掛けられたから俺は歩きながら振り向いたけど、そこにいたのは俺の隣に席に座っている、えーと、たしか・・・

「えーと、たしか・・・東町門ひがしまちかどさん、でしたよね」

「わおー、覚えていてくれたのね、ありがとう!」

 そう言ったかと思うと東町門さんはニコッとして歩く速度を早め、どちらかと言えば小走りに速度を速めて歩きだした。俺は立ち止まる形で東町門さんを待ってたけど、東町門さんが俺の左側に並ぶ形になったところで俺も歩き始めた。東町門さんも速度を落とし、歩く速さはほぼ普通通りだ

「・・・まるで喧嘩ねー」

「へ?」

「そう見えるでしょ?」

「東町門さん、どういう意味?」

「『しずかでいいわよー」

「へ?」

「だーかーら、東町門だと長ったらしいでしょ?だから静でいいわよ」

「ホントに名前で呼んでもいいんですか?」

「いいわよー。私のモットーは『広く、浅く』よ。まずは顔と名前を覚えてもらわないとね」

「まあ、別に悪い事だとは思わないけど」

「そういう事です」

 でも、さっきまではニコッとしていたのに、今の東町門さん、いや静さんは鋭い視線を飛ばしている。まるでさっきまでとは別人みたいに。

「・・・話を元に戻すけど、目の前を歩いている二人、キョーゴ君ならどう見る?」

「先輩と千歳さんの事?」

「そう」

「『どう見る?』と言われても・・・俺の目には妙にウマが合うというか、結構仲よさそうに見えるけど・・・」

「ふーん、そうキョーゴ君には見えるのね」

 俺は思ったとおりの事を口に出しただけなのに、静さんは妙に意味深な事を言ってる。しかも、鋭い視線を前を歩く二人に向けたままだ・・・一体、この人は何を考えてるんだ?

「・・・じゃあ、静さんの目には先輩と千歳さんはどう映っているんだ?」

「わたしの目にはねえ、あの二人、口では仲良さそうに振る舞っているけど、互いの腹の内を探っているというか、火花を散らしているようにしか見えないけどね」

 俺は思わず東町門さんを覗き込むようにして見てしまったけど、静さんは鋭い視線を二人に向けたままだった。

「・・・キョーゴ君、あなた、もしかして心当たりがあるんじゃあないの?」

「俺に?どういう意味?」

「まあ、見ている分には面白いから、わたしに火の粉が降りかからなければ別にいいけどね」

「????? (・・? 」

 それだけ言うと静さんは最初の時のようにニコッとして柔和な、自然な笑みになったけど、俺には静さんが何を考えているのかホントに分からない。それに、どうして先輩と千歳さんが火花を散らしているように見えるのか、それも全然分からない。

 俺の目がおかしいのか、それとも静さんの見方がおかしいのか・・・


 さすがに先輩と千歳さんが一緒だったのは生徒用玄関までだ。当たり前だけど靴を履き替える場所が違うのだから、そこで二人は別れて千歳さんは1年2組の生徒たちの靴が置いてあるところで履き替える事になるのだが、当然だが俺と静さんも千歳さんの後に続く感じで靴を履き替える。

 千歳さんは俺と静さんがすぐ後ろにいた事にこの段階で初めて気付いたようだ。

「あれ?・・・静ちゃん、いつからいたの?」

「ん?かなーり前から」

「あらー、一声掛けてくれれば良かったのに」

「なーんか、2年生の先輩と結構仲睦まじく話してたから声を掛け辛くてねー」

「あー、ゴメンゴメン」

「ところでさあ、今日の3時間目、結構憂鬱なんだよねー」

「はへ?」

「わたしさあ、体育、ドがつく程嫌いなのよー」

「なんでー?」

「だってさあ、・・・」

 おいおい、今度は千歳さんと静さんが俺を無視してニコニコしながら話してるぞ!?俺の存在はこの二人にとって、どうでもいいレベル?

 結局、俺はさっきと同じく二人の後ろを黙ってついていく事しか出来なかった・・・

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