将を射んと欲すれば・・・

第39話 クソ真面目な馬鹿連中(?)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「おはよー、キョーちゃん」


 この言葉を聞いた時、俺は全てを思い出した。


 ある意味、先輩は自分の言った言葉に責任を取ったのだが、俺にとっては『青天の霹靂へきれき』だ。何しろ今日は入学式の翌々日、昨日の今日だ。せんぱーい、何を考えてるんですかあ?

 俺は一瞬、何をすればいいのか分からなくなってヘナヘナと座り込んでしまったけど、先に座り込んでいた千歳ちとせさんは逆にこの言葉に発奮したのか立ち上がり、俺のトレーナーの首元を掴んだ!

「兄さん!これは一体どういう事なんですかあ!!私には『彼女はいない』『仲の良い幼馴染さんはいない』などと言っておきながら、どうして早朝からお迎えがくるのか、私が納得行く説明をして頂戴!!!」

「お、落ち着け!俺だって訳が分からないんだけど」

「言い訳はどうでもいいから、だいたい『キョーちゃん』などという甘ったるい言葉の響きは何ですかあ!誰が見たって、この2年生が兄さんを迎えに来たとしか思えません!!」

「そんな事を言われたって俺だって寝耳に水だぞ!」

「いい加減に全部白状しなさい!そうでないと私がこの2年生から根掘り葉掘り聞きだすわよ!!」

 そう捲し上げるときの千歳さんの表情は怖いくらいだ。ある意味、目が血走ってるぞ!俺は先輩をチラッと見たけど、先輩は俺のピンチ(?)にも関わらず、ニコニコしたままだ。おいおい、自分がこの状況を作り出したとは思えないほどの無関心ぶりだぞ、先輩は何を考えてるんですかあ!

「さあ、いい加減に言いなさい!」

「わーかったって。この手を放してくれよお」

「正直に言うって約束するなら離します!」

「話すからさあ」

「じゃあ、話しなさい」

 それだけ言うと千歳さんはパッと手を離したけど、その代わり顔を思いっきり俺に近づけて「さあ、早く話せ」と言わんばかりの迫力で俺に迫っている。顔はニコニコしているけど怒っているのは明白だあ。コメカミの辺りがピクピクしてるぞ!

 俺は「はーーーーーー・・・」と長ーいため息をした後に目だけ先輩の方に向けた。

「せんぱーい、これって、2年前の夏に俺との間でした約束、いわば先輩から見れば屈辱的な罰ゲームに等しい奴ですよねえ」

「はあ?罰ゲーム!?」

「ですよね、姫川ひめかわ先輩。いや、本当に『美園みその先輩』と呼んでもいいんですかあ?」

 俺は先輩に目だけを向けてるけど、千歳さんは俺に思いっきり近づけていた顔を先輩の方へ向けたけど、明らかにその目は疑心暗鬼の塊だとしか思えない!?

「・・・まあ、ぶっちゃけて言えばキョーちゃんの言う通りよー。自分が言った言葉に責任を持っただけだから気にしないでねー」

 先輩はそう言って俺に視線を向けたままニコニコしてるけど、その『キョーちゃん』はどういう意味なんですかあ!?責任を取るの意味が全然わからないんですけどお!!おまけに千歳さんも目をパチパチさせながら俺と先輩を交互に見てるという事は千歳さんも『なんじゃそりゃあ?』と思ってるとしか思えない!

「・・・あのねキョーちゃん、あの時のキョーちゃんだったら清風山せいふうざん高校に入れるようなレベルじゃあなかったから、私も格好だったけど、まさか本当に特進科に、しかも特待生として入学するなんて今でも信じられないわよ。私だって超がつく程恥ずかしかったけど、新札幌しんさっぽろ中学の元・生徒会長が忘れたフリをするのも悪いと思ってさあ」

 そう先輩は言い切ったけど、その顔はずうっとニコニコしたまま。俺には先輩が本音を言ってるのか方便なのか全然理解できませーん

「・・・あのー、姫川先輩・・・」

「ん?どうしたの?」

 千歳さんはようやく口を開いたけど、その表情は明らかに頭の上に『?』が3つも4つもついているような表情だ。そんな千歳さんを見ても先輩はニコニコ顔のままだから、本当に何を考えてるのか、俺にはぜーんぜん分かりませーん。

「という事は、姫川先輩は屈辱的な罰ゲームをしているという事ですかあ?」

「はあい、その通りでーす。そういう訳だから、きょうだい喧嘩はおしまーい」

 そう先輩は言ったかと思ったらニコッと微笑んで右手を軽く俺に振っているから、その表情はホントに罰ゲームなのかと疑いたくなるけどね。

 千歳さんは「はーーー」とため息をついたかと思ったら俺の方に振り向いたけど、その千歳さんもニコッと微笑んだ。

「・・・ま、兄さんにこーんなカノジョさんがいるとは最初から思ってなかったけど、ホント、新札幌中学はクソ真面目な馬鹿連中しか揃ってないのかなあ」

 そう言ったかと思ったら千歳さんはスタスタとリビングの方へ歩いて行ってしまった。千歳さんは歩きながらこっちへ顔だけ振り向いて「兄さーん、早く着替えないと本当に遅刻するよー」とだけ言って自分はそそくさと階段を上っていった。

俺はもう1回、先輩の方を振り向いたけど、先輩は相変わらずニコニコしたままだ。

「・・・あのー」

「ん?」

「俺も着替えた方がいいんですよねえ」

「当たり前でしょ?入学式の翌々日から遅刻をしたいというなら止めませんけど」

「まさかと思いますけど、俺たちと一緒に行くとか・・・」

「うーん、どうせなら一緒に行きましょう。あなたの妹さんともお近づきになりたいし」

「それじゃあ、ちょっと待っていて下さい。俺もすぐに着替えますから」

「急いでねー」

 はーーーーー・・・人騒がせな先輩だなあ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る