第38話 留辺蘂京極14歳 中学2年⑥~先に待ってるわよ~

 残念ながら、俺と姫川ひめかわ先輩が二人だけで生徒会の仕事をやったのはこの日だけだった(ある意味、残念!?)。次の日には野田生のだおい先輩がまさに不死鳥のごとく復活して、先輩は「マジで風邪の方が逃げたのかなあ」とか言って笑っていたし野田生先輩も「オレは夏風邪にもインフルエンザにも嫌われてるからなあ」と笑ってた。さらにその次の日には谷地頭やちがしら先輩も復活したから、遅れていた仕事を取り戻すのに時間は掛からなかった。


 俺は生徒会室で先輩にケチョンケチョンに笑われた事で、図書室や図書館で天体や星座、惑星に関する本や自然科学に関する本を読み漁るのをやめた。同じ理科でも生物や化学に関する本も読むようになった。札幌練習会の模試を受けた流れで練習会に通うようにもなり、それこそ俺の生活はを境に激変したと言って過言ではなかった。鞄の中には有名進学校の入試問題集が常に入ってる状態になり、先輩や谷地頭先輩からは「キョーゴ君らしくなーい、面白くなーい」と散々冷やかされたものだ。


 3月、先輩は第一志望であった清風山せいふうざん高校のスーパー特進科に見事合格したけど、うちの学校で清風山高校に合格したのは先輩以外ではスポーツ推薦枠で入ったスキー滑降の女子だけで、先輩以外の男子2人は残念ながら不合格だった。

 蛇足だけど、先輩の双子のお兄さんである頼成らいじょう先輩は苫小牧とまこまい大付属高校に野球のスポーツ推薦枠で入学した。あそこの野球部は全寮制だから、先輩は「これでバカ兄貴の顔を見なくても済む」、頼成先輩は「ネクラ女に邪魔されずに野球に専念できる環境が整った」と、最後までお互いを馬鹿にしていたなあ。


 俺は合格発表があった翌日、廊下で先輩にバッタリ会った。その時の先輩の髪は肩に届くまでになっていた。

「あー、先輩、合格おめでとうございます」

 俺は型通りの挨拶をしたけど、先輩は軽く右手を上げながらニコッとして

「キョーゴ君は清風山高校にするの?」

「ええ、そのつもりです。俺の第一志望は清風山高校の特進科ですよ」

「先に待ってるわよ、と言いたいけど大丈夫かなあ!?」

「任せてください!と俺も言いたいけど、正直自信ないなあ」

「あらあらー、アインシュタインがそんな事を言ってもいいのかなあ」

「せんぱーい、もうその台詞は勘弁して下さいよお。俺は自分の身の丈を知ったつもりですよ」

「その割に特進科などと大きく出たわね」

「ここだけは譲れませんよ。死ぬ気で1年間頑張ります!」

「期待してるわよー」

「期待していて下さい」

 俺が新札幌しんさっぽろ中学で先輩と言葉を交わしたのはこれが最後だった。

 俺は先輩に言ったとおり、それから死に物狂いで頑張って第一志望である清風山高校の特進科に合格した。合格通知と共に届いた『成績優秀特待生通知書』を見た時には父さんは自分の事のように喜んでくれたけど、俺自身が一番驚いていたのも事実だ。

 まあ、この通知書は俺が1年以上に渡って頑張ってきた努力の賜物だと思っているけど、この通知があってもなくても、俺はこれからもコツコツと勉強していくだけだと思っている。俺は決して天才型ではない。叩き上げの、それこそ頑張る事しか能がない奴だと自分では思っているからだ。努力を怠ったら、あっという間に取り残される。いや、取り残されるのが怖いから必死になっているというべきかもしれない。特進科はある意味、俺にとっては重すぎる。


 俺は『めでたい焼き』の店を出た後の出来事は完全に忘れていた。そう、先輩があの台詞を言うまでは・・・

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