第36話 留辺蘂京極14歳 中学2年④~本音を言ったつもりだけど~
結局、
先輩が生徒会室の鍵を閉め、そのまま俺と先輩は職員室へ寄って鍵を返した後は靴を履き替えて下校だ。グラウンドではサッカー部と陸上部がまだ練習しているのが見えていたが野球部はランニングをしているという事は練習そのものは終わったと見るべきだろう。そんなグラウンドの様子を見ながら俺と先輩は正門へ向かった。
俺は元々帰宅部だし、先輩は元・英会話同好会で既に引退の身(名目的には。実際には顔を出す3年生はかなりいるようです)だから塾が無い日は生徒会が終われば帰るだけ・・・なのだが、先輩は俺の左に並ぶように歩いてたかと思ったら、急に俺の方を見ながらニコッとした。
「・・・キョーゴ君」
「ん?何ですかあ」
「さっきの約束、よもや忘れたとは言わせないわよ」
「うーん、先輩が忘れてる事を期待してたんだけどなあ」
「生徒会長たる者が書記の言葉を忘れたら恥です!」
「せんぱーい、こういうところで完璧超人を演じるくらいなら、コピペをやめましょうよ」
「うっ・・・ま、まあ、とりあえずそれはこっちに置いておいて、いざ『めでたい焼き』に向かってレッツゴー!」
「こういう時だけは威勢がいいんだからさあ」
「ん?何か言った?」
「いえ、独り言です」
あーあ、こういうところを忘れないのが先輩の悪いところ(?)なのだが、それでも先輩と一緒に『めでたい焼き』に行けるなんて、まさに超ラッキーイベントなのは間違いない!もし全校の男子生徒が知ったら「羨ましい」とか「キョーゴ、お前は生意気だあ」などと小言を言われそうだけど、先輩と一緒に行けるというだけで十分舞い上がる出来事だあ!
そんな俺と先輩だが、俺はメイン通りを外れて左に曲がった。いわゆる住宅街の真ん中を突っ切る道だ。先輩はその道を真っ直ぐ行くつもりだったのか、慌てて立ち止まって俺に声を掛けた。
「・・・あれ?キョーゴ君、『めでたい焼き』に行くんじゃあなかったの?」
「行きますよー」
「それなら、ここを真っ直ぐでしょ?」
「それだと大回りですよ」
「うっそー!?」
「嘘じゃあないですよ。この道は
「たしかに・・・」
「この道を行って野津幌川を渡った後に線路の東側の道を行って、途中のガードを潜って電車通りに抜ければ早いんですよ」
「うわー、知らなかった」
「簡単に言えばL字型に行くのではなくZ字型に進むんですよ」
「ナルホド・・・」
「線路の横の道は住宅街の端ですからねー。知ってる人は知ってるけど、大半の人は知りませんよ」
「まあ、たしかに川のあっちとこっちでは学区が違うから知らないのも無理ないかあ」
そう言ったかと思うと先輩も道を曲がって俺の横に並んだから、その後は俺が道案内をする形で進んだ。その間、あまり会話はなかったけど俺としては至福の時間だった。もう夕暮れとも言える時間を歩く俺と先輩を街の人はどう見てたのだろうか・・・
俺と先輩は住宅街を突っ切る道を進んだが、めでたい焼きに行くのは川を渡った向こう側に行く必要があるのだが、橋の手前にある交差点を渡りながら俺は左を指差しながら
「せんぱーい」
「ん?」
「あれが俺のうち」
「どれ?どこ?」
「あのクリーム色の壁で赤い屋根」
「あー、あれねー。もしかして新築?」
「違いますよ。俺が小学生の時にリフォームして外壁を変えたから結構綺麗に見えるだけですよ」
「キョーゴくーん、リフォームは日本人にしか通用しないわよー」
「マジ!?」
「本来、
「それじゃあ、俺が言った意味のリフォームは英語では何と言うんですかあ?」
「
「リノベーション?」
「キョーゴくーん、君の発音はまさにカタカナ英語ね」
「すみませんね!どうせ俺は先輩のようなバイリンガルになれませんよーだ」
「まあまあ、あんまり拗ねると折角の可愛い顔が台無しよー」
「せんぱーい、『
「うっ、バレたか」
そう言ったかと思ったら先輩は鞄を持ってない左手で自分の頬をポリポリと掻いたけど、狙ってたのが丸わかりですよー。まあ、そこが先輩らいしいけどね。
「だってさー、先輩、思いっきり笑ってましたよ」
「うわあ、営業スマイルを使えば良かったあ!」
「せんぱーい、俺は本当に拗ねちゃいますよー」
「キョーゴ君の拗ねた顔も結構可愛いから、お姉さん、キュンときちゃうなー」
「せんぱーい、今度は褒め殺しですかあ?」
「あらー、今度は違うわよー。キョーゴ君のそういう顔はお姉さん好みだよ。マッチョとは真逆のところもお姉さん好みだからねー」
「こういうところで『お姉さん』という言葉を使われてもなあ」
「うーん、お姉さん、本音を言ったつもりだけど」
「せんぱーい!」
「ハイハイ、折角のいい雰囲気を壊すのはお互いに止めましょう」
「それもそうですね」
その後は互いに会話らしい会話は殆どなかったけど、かと言っていがみ合ってる訳でもなく歩き続けた。俺は時々先輩の方をチラッと見てたけど先輩は終始ご機嫌な笑顔のままだった。俺は先輩がずうっとご機嫌な理由が分からなかったけど「たい焼きをタダで食べれるからご機嫌でいるのかなあ」と勝手に解釈していた。
『いらっしゃいませー』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます