第35話 留辺蘂京極14歳 中学2年③~これが絶対条件だからね!~

「うーん、たしかに普通の人ならそう考えるわよね」

「じゃあ、何でそうしなかったんですか?」

 先輩は一瞬だが俺をチラッと見たけど、すぐに視線を元に戻した。

「・・・歩いて通えないから」

 それだけ言うと先輩は「はーーー・・・」とため息をついた。

 おいおい、そんなアホらしい理由かよ!?マジ笑っちゃうぞ!

「あー!キョーゴ君、内心思いっきり笑ったでしょ!!」

「そ、そんな事はありません!そこまで地元の高校を熱愛する先輩の心意気に関心した次第であります!」

「キョーゴ君、無理しなくていいわよー。顔が思いっきり引きつってるわよ」

「うっ・・・バレましたかあ」

「あったり前よ!」

 それだけ言うと先輩も笑ったけど、激怒している訳ではなさそうだ。その証拠に左肘で俺の脇腹をグリグリと押してるけど揶揄い気味にやってるから、むしろ照れ隠しのようだ。

「まあ、ホントの理由はお母さんの母校だからね」

「あー、ナルホド」

「お母さんの時はセーラー服だったけど、あの黄土色のブレザーを着て清風山せいふうざん高校に通うのを小学校の時から憧れていたから、私にとってトキコーは問題外ね」

「ま、別に俺は制服には全然拘りがないけどねー」

「もう1つの理由はキョーゴ君なら知ってると思うけど、私はBilingualバイリンガルに憧れてるからねえ」

「・・・・・」

 そう、俺は以前先輩に教えてもらった事があるが、今でこそ先輩のお母さんは新千歳空港の職員をしつつ外国語のボランティアをやっているけど、20代、30代の頃は国際線のキャビンアテンダントとして世界中の空を飛びまわっていたのだ。先輩が清風山高校のスーパー特進科を第一志望にした理由がそこにあるのは、この生徒会メンバーの中で知らない人はいない。トキコーと清風山高校の特進科にはショートステイが無いのだ

「・・・という事は、先輩は私立校A日程はトキコーの特進科、B日程は清風山高校のスーパー特進科にするんですよねえ」

「まあ、そうなるわ。願書には普通科との併願で出すけど、公立はホントの意味での滑り止めになるわね」

「公立を滑り止めとか言ったら、頼成らいじょう先輩が激怒しませんかねえ」

 俺は結構ニヤニヤしながら言ったけど、先輩は俺の意図を勘違いしたのか額に青筋を立てた!

「はあ?が激怒なんかする訳ないでしょ!推薦入学が事実上内定してるから暇さえあれば『せいぜい頑張れよー』とか言って人をコケにする奴には私の爪の垢を煎じて飲ませたいくらいよ!」

 そう言ったかと思うと机を『ドン!』と叩いて立ち上がってる!ヤバイ!!本当に先輩の逆鱗に触れたかあ!?

「せんぱーい、もう少し優しい言葉をかけてあげたらどうですかあ?俺たち男子からは『頑張るマン先輩』とまで言われてる人気者ですよ」

「キョーゴ君、それ以上言ったら『頭グリグリの刑』を課すわよ!」

「うわっ、目がマジだ!発言を取り消させてもらいます!!」

「と・に・か・く!あんな脳筋野郎を欲しがる高校がこの世にあるというのが間違ってるとしか思えない!!」

「・・・・・ (・_・;)」

 それだけ言うと先輩は少し落ち着きを取り戻したのか黙って座ったけど、イライラしているのだけは隠そうとしなかった。

 頼成先輩・・・フルネームは姫川ひめかわ頼成らいじょう、先輩のである。つまり、先輩も俺と同じ『二卵性双生児』なのだ。

 野球部所属でレギュラーのキャッチャー(当然だが夏休みまでの話)なのだが、元々は外野手だったけど、先輩の兄であるというのが理由かどうかは知らないけど器用な上に相当頭脳明晰で投手の癖を見抜いたり、打者の心理を読むのが上手いという事で1年生の秋からキャッチャーに転向して、逆にそれが成功してあちこちの高校からスカウトがやってくる程にまでなった。

 元々信じられないくらいの強肩で、本気で遠投させたら「150m以上投げられる(頼成先輩本人の弁)」ようだけど、さすがに150mも投げられる練習場がないから普段は抑えててるようだが、それでも100mは平気でいくのだから、俺とは雲泥の差だ。

 ただし、双子である事が理由かは分からないけど身長は野球選手にしては高くなく、また、肩は強くてもパンチ力は無いのは本人が一番分かっていた。だから、中学生になってからは姫川先輩のボヤキではないが「暇さえあればウェートトレーニングしている」だけあって、まさに筋肉の塊であり、ベンチプレスの数値を聞いた時に俺は「マジかよ!」と言ってしまったほどだ。

 暇さえあればウェートトレーニングしていて勉強には見向きもしない兄。暇さえあれば本を読んでいてマッチョを毛嫌いしている妹。そんな兄妹が家の中で、学校でどういう会話をしているかは容易に想像がつくと思う・・・

「せんぱーい、俺が言い過ぎましたあ。何か奢りますから機嫌直して下さいよお」

 俺はヘソを曲げた先輩を何とか宥めようと、あーだこーだ言って必死になったけど、先輩はツンとした表情のままだ。あーあ、これでも兄妹かよ!?まあ、確かに頼成先輩も普段は優しい人だけど、先輩の話題になると「あーんな奴が俺の妹かと思うと腹立たしい」「あいつの辞書には『労わる』とか『気遣う』の文字は無いのかよ」などと平然と言い放つくらいだから、まさにリアル犬猿の仲、水と油の関係だ。たしか英語では犬と猿ではなく「fightファイト like ライクcatsキャッツ and アンドdogsドッグス」、つまり『猫と犬のように喧嘩する』と表現するのは俺でも知ってる。というより、モロに模試で出たからなあ(俺はlikeの使い方を間違えたから、よーく覚えている。間違えたから覚えたというべきか)。「dogsドッグス andアンド monkeysモンキーズ」でないところが文化の違いなのかも。

「・・・まあ、キョーゴ君がそこまで言うなら機嫌を直してもいいわよ」

「ホントですか!?」

「その代わり『めでたい焼き』よ!これが絶対条件だからね!!」

「はいはい、分かりましたよ」

「約束よ。それも今日!」

「はいはい」

 先輩はニコッとしてようやく機嫌を直してくれたけど、その為に俺も痛い出費を迫られる事になった訳だ。やれやれ、ホントに強情な先輩だ。

 まあ、俺にはきょうだいがいない・・・い、いや、正しくは『今はきょうだいがいない』というべきか、幼稚園くらいの時のきょうだいと中学生になった時のきょうだいでは価値観、男女間の見解の相違もあって意見の食い違いが出てもおかしくはない。俺になのだから、もし今の俺に妹がいれば、頼成先輩と先輩のように喧嘩ばかりしていた可能性も無きにしも非ずだ。

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