第34話 留辺蘂京極14歳 中学2年②~すみませんでしたあ~

「はいはい、すみませんでしたあ!」


 姫川ひめかわ先輩が俺を茶化したのも無理はない。

 札幌練習会などの練習会グループの中学2年生5千人以上が受けた今回の模試では、教科別の100位以内に入ったのは数学の72位だけだ。もっとも、72位が32人いるのだから俺より1点低いだけの人は104位だ。理科は全体の上位の2割、社会もそれとほぼ同じ位置だが、国語と英語は辛うじて平均点だ。全ての教科で平均点そのものが満点の半分以下なのだから、この時期の模試としては難易度が高かったのかもしれないけど、お世辞にも「良かった」などと自慢できる物ではないのは俺にも分かる。

 問題は志望校に合格出来るラインに届いてない事だった。この時期はみんな高望みしているから、どうしても進学校や有名校に人気が集中している。今回の模試の場合、道内では定員の数倍もの中学2年生が2つの学校の4つの学科を志望していた。2つの学校とは道内2強と言われる札幌時計台高校、つまりトキコーと清風山せいふうざん高校であるが、2年生の場合、清風山高校のスーパー特進科と特進科は同一志望と見なして集計しているから、実際には両校の普通科を合わせた5つの科に人気が集中しているのが分かる。

「あのねえキョーゴ君、数学だけを見ればトキコーの特進科と清風山高校の特進・スーパー特進に余裕でしょうけど、国語と英語が思いっきり足を引っ張ったのは間違いないよねえ」

「・・・否定できないですね」

「模試前は『トキコーも清風山高校も普通科なら楽勝だあ』とか豪語してたけど、その普通科だって合格確率50%程度のラインじゃあ安全圏には程遠いね」

「せんぱーい、俺も言い過ぎたって反省してますよお」

 俺はため息しか出せなかった。今回の1学期の期末テストで俺は理科で満点を取った事で一気に学年総合10位に躍り出たけど、なぜ満点だったのか、その理由も俺は分かっていた。でも、今まで30位前後をウロウロしていた俺が初めてベスト10に入った事で逆に天狗になっていたというのを改めて思い知らされた。

「キョーゴくーん、期末デストの理科で満点を取れたのだって、今回のテスト範囲がキョーゴ君の十八番ともいうべき天体と惑星、月に関する問題とお得意の力学に関する問題でしょ?というかこの範囲で満点取れなかったらキョーゴ君じゃあないよねー」

「・・・はい」

「2年生140人の中では総合10位だったかもしれないけど、あくまで校内だけの結果であって、それだけを見て『アインシュタインの再来』などと言ってるのは、それこそ『井の中のかわず』だというのを今回の模試が証明したでしょ?」

「はーーー・・・せんぱーい、ホントに反省してますからあ、それ以上は勘弁して下さーい」

「・・・ま、恐らくこういう事になるだろうと思ってたから、無理矢理模試を受けさせて正解だったわね」

「正直、最初は嫌でしたけど、あの問寒別といかんべつが『この際だから5人で受けよう』とか言い出したから俺も一人だけ受けない訳にいかなくなったのも事実だけどね」

「問寒別君と谷地頭やちがしらさんはこういうと失礼だけど最初から地元の公立の東札幌ひがしさっぽろ高校志望だから、あの二人なら余裕だと思ってたけどね。谷地頭さんは夏休み中に模試の結果を写真付きのメールで教えてくれたし、問寒別君は昨日直接私に見せてくれたわ。でもね、もう1ランク上の高校も狙えるくらいなのは私にも分かるわよー」

「うわっ、俺には結果を教えてくれなかったのに先輩には教えてたのかよ!」

「ま、言い出しっぺは私ですから、私には正直に教えてくれたって事よねー」

 そう言ったかと思うと先輩は足元に置いてあった自分の学生鞄を「よいしょっ」と言って机の上に置いたかと思ったら鞄の中に手を突っ込んでゴソゴソと漁り出した。

「えーと・・・あった、これね」

 そう言ったかと思ったら先輩は封筒を取り出し、俺に「はい、どうぞ」と言って差し出した。

 先輩が差し出したのは、俺がさっき先輩に見せた模試の結果が入っていた封筒と同じ物。つまり、これは先輩の模試の結果だと俺は気付いた。

「・・・本当は野田生のだおい君と確認しあうつもりで持って来たんだけど、休んだからね」

「ふーん」

「どうせなら同じ新札幌しんさっぽろ中学の学年10位の人の結果を見て自分の問題点をあぶり出す事をお勧めするわ」

 俺は半分興味津々、半分戦々恐々といった感じで先輩から封筒を受け取ると、中から用紙を取り出して『バサッ』と机の上に広げた。


「どう、キョーゴ君の感想は?・・・」


「・・・穴がない」


 俺は先輩の模試の結果を穴が開く程眺めた後に、ため息と共に正直な感想を述べたが先輩はニコッと微笑んだ。

「正確には数学に穴があるのは認めるけど、今回は数学の平均点が極端に低いから私のような点数でも結構上位に見えるだけよ」

「・・・・・」

 俺は正直『はーーーーーー』と大きなため息をつきたかったが、それを先輩の前でやるのは失礼だと思ってやらなかった。でも、俺は先輩の模試の結果を見て、いかに自分が大ぼらを吹いたかを思いしらされた格好だ。学年が違うとはいえ、これが同じ1学期の期末テスト総合10位の実力なのか・・・。

 特段抜きんでた教科はないけど全5教科で満遍なく点数を稼いでいるから、教科別順位で100位以内はないけど総合順位では二桁だ。まあ、二桁と言っても98位だからギリギリだけど、俺の総合370位と比較したら雲泥の差だ。

 注目すべきは志望校の合格確率だ。

 第一志望の清風山高校スーパー特進科、第二志望の清風山高校特進科の合格確率は80%以上、第三希望である清風山高校普通科は90%以上だから、普通科は安全圏と見て間違いない。スーパー特進科と特進科も今のレベルを維持できれば十分に手が届く範囲だ。

 でも、俺は先輩の志望校を見て「おやっ?」と思った。

「あれ?・・・先輩、何故トキコーの特進科を第四志望にしたんですか?俺なら第三志望にするけど」

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