第33話 留辺蘂京極14歳 中学2年①~マジ傑作よー!~

 あれは2年前の夏・・・


 正しくは2年前の8月、夏休み明け2日目の事だ。場所は新札幌しんさっぽろ中学校の生徒会室。


“トントン”


「はーい」


“ガチャリ”


「あれー?姫川ひめかわ先輩だけ?」

「そうだよー」

 俺は帰りのショートホームルームが終わった後、生徒会室へ行ったけど予想に反して生徒会室には会長の姫川先輩しかいなかった。

 当然だが、この時の姫川先輩は中学3年生。新札幌中学のセーラー服がお似合いの女子中学生!でも、この頃の先輩の髪は肩に届くか届かないかで、髪を伸ばした直後くらいだ。それと・・・まあ、あの頃から中学生とは思えないくらいに胸は大きかったけどね。ただ・・・明らかにあの頃より大きくなっている!!

 先輩は7月から後期生徒会長に就任したけど、他のメンバーは副会長の野田生おだおい先輩、庶務の問寒別といかんべつ、書記の俺と谷地頭やちがしら先輩の5人だ。会長ともう一人の書記の二人は女子だけど他の三人は男だ。

 姫川先輩は一人黙々とパソコンを打っていたが、決して暇つぶしでパソコンを開いている訳ではない。来月最終週の土曜日には文化祭があるから、生徒会関連の書類を作っていたのは俺でも分かる。

 俺は「よいしょ」と鞄を机の上に置いてから姫川先輩の後ろに回り込んで、先輩が作っていた企画書を見た。

「あれー?それって去年のコピペじゃあないですかあ?」

「あらー、コピペってどういう意味かしらー」

「せんぱいー、惚けないでくださいよお。だって、日付が去年のままですよー」

「うっ・・・キョーゴ君、細かいところをチェックしてるわねー」

「生徒会書記の仕事を会長自らやろうとするからこうなるんです!」

 そう言うと俺も姫川先輩の隣の席に腰かけた。

「・・・野田生先輩は?」

「野田生君は今日は学校を休んだよー」

「マジ?あの体力自慢の野田生先輩がですかあ!?」

「そうよー。昨日から少し体調が悪かったのはキョーゴ君も知ってたでしょ?」

「あー、言われてみればそうだったなあ」

「先生が言うには夏風邪みたいだけど、夏風邪は長引くからねー」

「野田生先輩なら1日で回復するでしょ?バスケ部の鬼軍曹の前では風邪の方が逃げていくでしょうから」

「相変わらず能天気ですねえ。というより、君が風邪でダウンしたところを見た事ないけど?」

「俺だって去年のお盆に一週間寝込みました!」

「へえ、キョーゴ君も風邪をひくんだあ。〇〇は風邪をひかないって昔から言うけどねー」

「俺は〇〇ではありません!その証拠が1学期の期末テストの理科満点、総合学年10位ですから!」

「まあ、それは認めてやってもいいけど、お仕事は頑張ってよ」

「任せて下さい!」

「期待してるわよー、と言いたいけど、恐らく今週は二人で五人分頑張るしかないけどね」

 それだけ言うと先輩は俺の方を見てニコッとしたけど、俺は一瞬だけど意味が分からず「あれ?」と思った。姫川先輩と俺だけ・・・マジかあ!?

「ちょ、ちょっと待ってください!という事は谷地頭先輩と問寒別も夏風邪かあ!?」

「あー、それは違うわよー。たしかに谷地頭さんは夏風邪でダウンしたけど、問寒別君は部活よー」

「へ?」

「日頃の頑張りを私が潰すのは忍びなくてね」

「あー、ナルホド。3年生が引退したから・・・」

「そういう事。折角のレギュラー取りのチャンスでもあるから、私が『8月31日までは生徒会よりも部活を優先してもOK』って許可を出したわ」

「でも俺は対象外って事でしょ?」

「当たり前です!帰宅部にレギュラーも補欠もありませーん!」

「分かってますよ、冗談で言っただけですから。でも、問寒別がやる筈だった企画書を先輩がやってた理由が分かりましたよ」

「これで筋が通ったでしょ?」

「たしかに・・・」

 それだけ言うと俺は鞄を開けて、中に入れてあった封筒を1枚取り出した。

「はーーーーーー・・・せんぱーい、言われた物を持ってきましたよー」

「おーっし、これで君が嘘を言ってるか本当の事を言ってるかが分かるわねー」

 そう言うと先輩はパソコンを打っていた手を止めて、俺の封筒を受け取った。その封筒の中に入っていたのは・・・お盆直前に行われた、札幌練習会での模試の結果だ。

「・・・せんぱーい、俺の事をあーだこーだ言う前に、本物の受験生である野田生先輩や谷地頭先輩の方を心配した方がいいと思うけどー」

「・・・あの二人がコケルとは思えないけどねー」

「でもー、去年だって『絶対合格間違いなし』とまで言われてた銚子口ちょうしぐち先輩がトキコー不合格でしたよねえ」

「・・・銚子口先輩、人目をはばからず泣いてたから私も貰い泣きしちゃったのを思い出したわー。あれはホントに可哀そうだったなあ」

 そう言いながら姫川先輩は俺から受け取った封筒の中身を『バサッ』と広げた。その封筒にはA3の紙が3枚入っていて、各教科の問題ごとの結果と道内平均点、順位、各人の得手・不得手箇所の指摘、それと第四志望校までの合格ラインと合格確率が書いてあった。当然だが俺はその3枚の紙に書かれた内容を全部知っている。

 広げるまではノホホンとした表情でいた姫川先輩だったのだが・・・広げた途端、両手がブルブル震え出した。


「あんたさあ、この結果を見てどう思ったのお!?マジ傑作よー!」


 そう先輩は言ったかと思うとお腹を抱えて笑い出し、紙を右手で持ってヒラヒラさせて俺に見せびらかしてるじゃあありませんかあ!

「悪かったですね!俺は先輩と違って優秀じゃあありませんから」

 そう言って俺は先輩から用紙を取り戻そうとしたけど、先輩が椅子から立ち上がって「嫌だよー」とか言って生徒会室の中を逃げ回るから、思わず先輩と二人で年甲斐もなく鬼ごっこ(?)を始めてしまった。「返せよー」「やーだよー」などと、殆ど子供の追い駆けっこと同じような事が続いたけど、何だかんだで俺が用紙を取り戻して一件落着(?)となった。


「キョーゴくーん、これがアインシュタインの実力なのー?」

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