第29話 よきに計らえ
結局、今日の俺はどの部や同好会の体験入部どころか顔見せ1つする事なく下校した。シンタ君はどうやら今日から体験入部する気でいるようだったし、クラスの連中の半分以上も自分が関心がある部や同好会の体験入部していくようだったから俺は手を振って教室を後にしたけど。
ただ・・・なぜか隣には
「・・・あのー」
「ん?兄さん、どうかしましたか?」
「別に俺と帰らなくても、
「兄さーん、私は何度も言うけど決して自分の成すべき事を忘れている訳ではないですよー」
「へ?」
「兄さんのカノジョさんとか可愛い幼馴染さんが『わたしと一緒に帰ろう』などと言ってくるかどうかを監視しているだけですよ」
「お前なあ」
「ハイハイ、さすがの私も家に帰るまでですよ。塾にまで押しかけていったら迷惑でしょうから、今日は遠慮しておきます」
「おいおい、『今日は』は結構意味深な発言だぞ」
「本当は塾で待ち合わせているかもしれないから兄さんについていきたいのはヤマヤマだけど、私が兄さんの塾について行ったら今度は私が塾の見学者か入塾希望者かと思われるから遠慮しておく、というのが正しいかなあ」
「はいはい、そう捉えておきますよ」
やれやれ、ようやく俺も千歳さんから解放されるのかあ。今日は何だかんだで6時間以上も千歳さんと一緒に行動してたし、千歳さんが隣にいなかったのはトイレの中だけだと言っても過言ではなかったからなあ。これで塾にもついてこられらたら俺も辟易するぞ。
そういえば・・・俺は早くも塾通いだけど・・・千歳さんはどうするつもりなんだろう・・・
「あのー・・・」
「ん?兄さん、また質問ですか?」
「そういえばさあ、千歳さんは塾に行くのか?」
「うーん、もしかしたら行くかもしれませんけど、今のところはノープランです」
「ヒュー、主席入学者は余裕ですねー」
「当たり前です!私にとって塾などという存在は遠い世界ですから」
「うわっ!俺は皮肉タップリで言ったつもりだったけど、もしかして今まで塾に行った事は・・・」
「ないわよー」
「マジかよ!?」
「だから言ったでしょ?『天は二物を与えた』ってね」
「はーーーー・・・俺が1年半も必至になって頑張って合格した北海道進学校2強のうちの1つにアッサリ合格したって事だよなあ」
「そうですよー」
「勘弁して欲しいぞ!しかも主席入学かよ、とほほ」
「兄さーん、あまり落ち込まないで下さいよお。たしかに『天は二物を与えた』は暴言でしたから撤回しますからあ」
「はいはい、事実は事実として冷静に受け止めますよ。それに兄貴として妹の後塵を拝するのは面白くないから今まで以上に必死になって千歳さんを追い越してみせますよ」
「うん、その言葉、気に入りました。もし私を追い越す事があったら御褒美を差し上げます!」
「その御褒美ってなんだあ?」
「ヒ・ミ・ツ」
「ケチ!」
「まあ、可哀そうだから教えてあげますよ。『よーく頑張ったね』と言って頭をナデナデしてあげます」
「俺は幼稚園児かよ!?」
「まあまあ、可愛い顔して拗ねないでね。入学2日目で早くも1年生ナンバー1とまで噂される私に頭をナデナデしてもらえるだけでも名誉ある事だと思ってくださいねー」
「はいはい、それじゃあ頭をナデナデしてもらえるよう、頑張って塾に行ってきます」
「期待してるわよー」
「あー、その言い方、ぜーったいに『私を追い越せるものなら追い越してみろ』って挑発してるなあ」
「そうだよー」
「勘弁してくれよなー」
「まあ、頭をナデナデする以上の御褒美を上げる事も検討しておきますよ」
「はいはい、検討しておいてね。どうせ俺には無理でしょうから」
「兄さんならいずれ私を追い越せると思ってますよ」
「出来うる限りの努力をさせて頂きます」
「うむ、よきに計らえ」
「ははー」
はーーーーー・・・今日は朝からずうっと千歳さんペースで振り回されているって事かよ!実際、放課後だって千歳さんの機転がなかったら今頃は調理実習室に缶詰めされていただろうし、千歳さんにいいようにあしらわれているというのが正しいかも!?
そんな俺と千歳さんは並んで歩いているけど、俺が時々チラッと右を歩く千歳さんを見ると、ずうっとニコニコしたままだ。それは家に帰るまでずうっと変わらなかった。ホントに何を考えて俺の右に並んで歩いていたんだろう・・・でも、ある意味、千歳さんは本当の意味で神が美貌と知性を与えた、この世の女神様かもしれない・・・
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