第28話 駒里姉妹、勧誘合戦(?)

 いきなり別の方向から会話に割り込む声がしたから思わず振り向いたけど、振り向く前から喋り方で誰なのか分かってしまった。そう、駒里こまさとかえで先輩だ。しかも、駒里先輩ともう一人、たしか副部長の尾白内おしろない先輩も一緒だ。

 でも、たしか今朝、駒里楓先輩は妹の駒里こまさとみどり先輩に確認してから勧誘すると言ってたはずだぞ。風紀委員長がこんな事を認めるというんですかあ!?

「ちょ、ちょっと待ってください!風紀委員長はあんな強引な勧誘を認めたんですかあ?」

 俺は相当焦ってたから思わず大声を出してしまったし、その声に気付いた千歳ちとせさんを始めとしたクラスに残っていた連中も一斉に俺の方を向いている。当然だがまだクラスに残っていた天北てんぽく先生も俺の方に注目している。

「あー、その事なんだけどー、みどりんに怒られちゃいましたー」

「ですよね!だいたい、何でSKTK同好会のツートップが1年2組に来てるんですかあ?どう見ても俺を勧誘しに来たとしか思えないですよ!」

「えー、だってー、1年2組はSKTK同好会の活動場所だよー」

「へ?」

「だからー、ウチがこの教室に来ても全然おかしくないよー。しかも今日は火曜日だからー、今年最初の活動日だよー」

「マジ!?」

「それにー、顧問は天北先生だよー」

「それもマジですかあ!?」

「このクラスがSKTK同好会の活動場所になってる理由はそこだよー」

「はー、そういう事ですかあ・・・」

「まあー、去年は先生が同好会の活動に口を出したことは一度もなかったよー」

「ちょ、ちょっと待ったあ!危うく先輩のペースに乗せられるところだったあ!!」

 危ない危ない、俺まで駒里楓先輩のノホホンムードに取り込まれて『はー、そういう事ですかあ』などと語尾を伸ばして発言してしまったあ!駒里先輩、一体、どういうマジックを使って俺をあーんなノホホンワールドに引き込んだ?

「だいたい、俺はただ単に教室でクラスメイトと話をしていただけです!SKTKの活動に参加したくて待っていた訳ではありません!その証拠にこのクラスの半数以上の人はまだ教室に残っていますから、先輩の言葉を借りるなら、このクラスの半分以上はSKTK同好会に加入する事になっちゃいますよ!」

「うーん、たしかにそうですねー」

「でしょ?それじゃあ、俺は別に帰っても問題ないですよね」

「えー、折角だからー、見ていくだけでいいからー、お願いだよー」

 そう言うと駒里楓先輩は俺に向かってニコッと微笑んだから、正直俺もドキッとした。マジやべえ、駒里緑先輩と並んで3年生の双璧と先輩たちが噂するだけあって破壊力も半端じゃあないぞ、どうする?

「ちわーす、って姉貴がどうしてここにいるんだあ!」

 いきなり前側のドアのところで大声がしたから俺を含めて2組のみんなが注目したけど、この声とこの絶叫を聞けば誰でも分かる駒里緑先輩だあ。しかも残るスイーツ研究会のメンバー3人も教室に来てるじゃあありませんかあ!!

 その駒里緑先輩はスタスタと速足で姉の楓先輩のところへ歩み寄ったかと思うと

「姉貴!強引に1年生を加入させるのはマズいって言っただろ!」

「えー、ウチはー、今日の同好会をやりに来ただけだよー」

「だからといって、あたしの顔に泥を塗るなよー」

「ウチはー、みどりんの言いつけをー、ちゃあんと守ってるよー」

「はーーー・・・相変わらず『暖簾のれんに腕押し』かよ!?」

「それは言い過ぎだよー」

 そう言うと楓先輩は適当な椅子にヨイショと座ったけど、緑先輩は立ったままだ

「・・・そういうみどりんこそー、どうしてここにいるのー?」

「うっ・・・そ、それはだなあ」

 緑先輩はさっきまでの絶叫とは打って変わってボソボソとした声に変わって、左手で自分の頬をポリポリかきながら

「そ、そこにいる姫川ひめかわさんが1年2組の男子生徒にスイーツ研究会の体験入部に参加したいって子がいるって教えてくれたからさあ」

「うっそー、とうとうスイーツ研究会にも陽の目が当たる時が来たのー?」

「ま、まあな・・・」

「それってー、誰なのー」

「そ、それはだなあ・・・」

 緑先輩はそれを言うと「アハ、アハハハ」とか言いながら頬をポリポリかいて、顔を真っ赤にして楓先輩の肩をバシンバシン叩いて誤魔化してるぞ!

 おいおい、という事は緑先輩も口では楓先輩に『強引に1年生を加入させるのはマズい』とか言いながら、俺を強引に加入させる気満々で1年2組に来たって事じゃあないかあ!しかも姫川先輩も右手を軽く振りながら「アハ、アハ」とか言いながら笑ってるし、こっちも緑先輩の力を使って強引に俺をスイーツ研究会に加入させる気満々だったって事かよ!?

「た、ただなあ、そいつは体験入部を今日するとは言ってなかったのは事実だからさあ、あたしが直々にそいつに『いつ体験入部する?』って聞こうと思ってただけだから、けーっして強引に加入させる気満々だった訳じゃあないぞー」

「みどりーん、自分からボロ出してるよー」

「うっ・・・そうじゃあない!『鉄は熱いうちに打て』の格言通りにしただけだあ!」

「またまたー、この照れ屋さんがさあ」

「う、うるさい!とーにーかーく、あたしは聞きに来ただけだあ!」

 それだけ言うと緑先輩は俺のところにスタスタと歩み寄ってきて、でも超が付くほど真面目な顔で

「おい!この場でいつ体験入部するか言え!」

「ちょ、ちょっと下さいよお、俺はいつ体験入部するとか全然言ってないですよお」

「男が前言撤回などという不名誉な事を言うのは風紀委員長として許さーん!」

「そんなあ」

「あたしは別に体験入部イコール正式入部とは一言も言ってないぞ!それはここにいる連中全てが証言してくれる筈だぞ!」

 それだけ言うと緑先輩はニコッと微笑んだけど、こっちも楓先輩と同じで破壊力抜群だあ!マジで俺もビビらされたぞ。しかも後方では楓先輩も同じくニコッとしながら俺を見てるし、姫川先輩まで右手を振りながら俺を見てるぞ。俺はここで即答しないとマズいのか?

「・・・あのー、風紀委員長」

 いきなり俺の後ろから声がした。この声は千歳さんだ。

「あれー、あんたはたしか今朝、こいつと一緒に登校していた子だよな?」

「今日の兄さんはこの後は塾へ行きますので、私が必ず来週体験入部に連れて行く事をお約束しますから、今日のところは塾優先という訳にはいきませんかねえ」

「なあんだ、そういう事情があるならハッキリ言えよー。あたしだってそういう事情があるって知ってたら無理に誘う必要もなかったのにさあ」

 そう言ったかと思うと緑先輩は顔を真っ赤にしながらバシバシと俺の右肩を左手で叩いて「ウンウン」と頷いてるぞ。おいおい、どう見ても照れ隠し以外の何者でもないぞ。でも、千歳さんの『助け船』で窮地を脱したのも事実だ。さすが義妹いもうと、兄貴に救いの手を差し伸べてくれたのかなあ。

「あー、でも今の言葉通りなら、こいつとあんたの二人で参加するって事かあ?」

「うーん、たしかに言葉通り受け止めるなら私と兄さんの二人で参加するって事になりますよねえ」

「おい、ちょっと待て!お前らは双子だったのかあ!?」

「あれえ、先輩の耳には入ってなかったんですかあ?」

「あー、スマンスマン、初耳だった。あたしはてっきり彼氏だと思ってた・・・」

「わおー、先輩は嬉しい事を言ってくれますねえ。そんな事を言うと兄さんが感激して涙をポロポロ流しちゃいますよー」

「そ、それもそうだなー。よーし、1週間後の放課後、調理実習室で待ってるぞ!」

「了解しました!」

 そう言うと千歳さんは右手を額のところへ持って行って敬礼をしたけど、駒里緑先輩は「ウンウン」と頷いたかと思ったら「おーし、それじゃあ行こうかあ」と言ってスタスタと歩き出して姫川先輩たちが唖然としているのを尻目に教室を出て行ってしまった。駒里楓先輩はというと終始ニコニコ顔で、緑先輩が教室を出ていく時に「ばいばーい」とか言って右手を振ってたからこっちも拍子抜けしたぞ。

 天北先生はというと、この姉妹喧嘩(?)の仲裁に乗り出す事なく、こちらも終始ニコニコしてたけど何を考えているのか全然分からないや。

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