第27話 兄さんは言葉の真意を掴む事を学習すべきです
「・・・サッカー部、ありがとうございましたー」
50の部・同好会のオオトリを務めたサッカー部が終わったのは、一番最初のオカルト研究会の爆笑(?)紹介から2時間以上も経ってからであった。俺も
それにしても、スーパー特進科・特進科の生徒で1つ、普通科で2つに所属出来るとあって50(実際は48の部・同好会と、同好会昇格を目指すサークルを加えた50)もあると正直大変だぞ。顧問の先生だって最大で3つの部・同好会を掛け持ちしている人もいるくらいだからなあ。
「・・・ところで兄さーん」
「ん?」
「兄さんはどこか興味がある部や同好会はあるの?」
壇上ではまだ生徒会長の締めの挨拶が続いているのに千歳さんは俺に顔を寄せてヒソヒソ声で言ってきた。
「うーん・・・」
「もしかして、兄さんはあまりにも候補が多すぎて迷っているのかですかあ?」
「その逆。候補なし」
「マジ!?」
「ホント。マジで興味なし」
「えー、勿体ないよお」
「それじゃあ、逆に聞くけど、千歳さんはどうするつもりなんだ?」
「うーん・・・回答拒否」
「はあ?それじゃあ俺と大して変わらんぞ」
「そんな事ないよー。兄さんに言わないだけです」
「ゴメン、俺は別の意味に捉えてた」
「どんな風に?」
「『どこにも入る気がないから回答する意味がない』だと思ってた」
「兄さーん、それじゃあ折角の高校生活が勿体ないです。友達の輪を広める事を考えたら、たとえ小さな同好会であっても粗末に扱うのは失礼ですよ」
「たしかに一理あるけど、仮に『天体観測部』のような物があったら有無を言わせず入部しただろうけど、かと言って自分で『天体観測部』を作るような気力もないからなあ」
いつの間にか
「・・・例えばの話ですけど、クラスの数人が『おーい、キョーゴ、オレたちと一緒に天体観測同好会を作ろうぜ』とか言ってきて、それが兄さんを含めて4人だったら、兄さんはスンナリ諦めますか?それとも5人目を必死になって集めますか?」
「千歳さーん、話が飛躍し過ぎですよお。他力本願で申し訳ないけど、そこまでして俺は新たな同好会を立ち上げるつもりはないよ」
「ホントに淡泊なんですねえ」
「俺は与えられた選択肢の中で最善を選ぶ手法を好む。この場合は、与えられた選択肢を排除して新たな一手をやるという事だから、俺の主義に反している」
「兄さんは夢がないだけです。正直に言いますけど私一人でも立ち上げたい事がありますよ。兄さんとならば立ち上げてもいいと思ってるくらいですけど、肝心な兄さんがこれでは言い出せないですよ」
「それって、自己紹介の時に言ってた園芸部の事かあ?」
「うーん、園芸部もそうですけど、それ以外に立ち上げたい同好会があるのも事実ですよ」
「ふーん」
「あー、なんか投げやりー」
「悪かったな。とにかく俺は与えられた選択肢の中から選ぶ、ただそれだけだ」
「はいはい、わかりましたよ。でも、兄さんは言葉の真意を掴む事を学習すべきですよ」
「どういう意味だ?」
「言った通りです」
「?????」
いつの間にか講堂にいた1年生の大半は教室へ戻ってしまったようで、生徒会役員や一部の応援の生徒、先生方、事務職員が椅子の片付けを始めていた。俺と千歳さんは椅子の片付けの邪魔になっている事に気付いて立ち上がり、教室へ戻る事にした。
「・・・正直に言いますけど、私は野球部やサッカー部といった運動部のマネージャーは無条件で御断りさせて頂きます。兄さんもその理由は分かりますよね」
千歳さんは廊下を歩きながら俺に話しかけてきたけど、周囲に2年生や3年生がいるのを知っての発言としか思えないくらいに大きな声で喋っているから、運動部と思われる男子生徒が顔をしかめっ面にしているのに気付いてるのかあ?ホント、我がままな妹でゴメンさないねー。
「・・・俺は何でマネージャーが嫌なのか分からないから同調を求められてもなあ」
「・・・例えばの話で申し訳ないけど、あの風紀委員長が兄さんをスイーツ研究会のメンバーとしてではなく、スケジュール管理とか材料手配、エプロンの洗濯といったマネージャーとしてスカウトしてきたらどうする?」
「うーん・・・拒否出来る、出来ないは別として、お菓子作りが出来ないスイーツ研究会のメンバーなんて楽しみが無いに等しいから、やりたくないぞ」
「それと同じ理由です。百歩譲って女子バレー部とか女子バスケ部が『わたしたちと一緒に汗を流しましょう』と誘ってくれたら考えるかもしれないけど、男子しかプレーできないところに私が入ったところで私にはメリットは全然ないですよ。一緒にプレーできないなら最初からやりたくありません!」
「それで男子しかいない運動部は拒否という訳か・・・」
「幸か不幸か、女子の運動部で私に声を掛けてきたところはないですよー。でも、仮に声を掛けてきたとしても私が入部しない理由は兄さんも知ってますよね」
「う、うん・・・」
俺も何となくだが千歳さんの気持ちが少しだけ分かったような気がした。小学生の時にダンスをやり過ぎて左足を痛めたから激しい運動をするのを控えている。もしかしたら、本当は今でもダンスをやりたいのかもしれないけど自分がその輪の中に入って一緒に汗を流せないのが耐えられないのかもしれない。だから運動部には入りたくないのか・・・
「・・・私も正直に言いますけど、現在、特進科とスーパー特進科の先輩たちで運動部に在籍している人はゼロですよね。
おいおい、大声で喋りながら歩いてるから周囲に丸聞こえだぞ。後でブーブー言われても俺は責任持てないから正直勘弁して欲しいぞ、ったくー。
そんな俺と千歳さんが2組に戻った時、既に他のクラスメイトは全員席に座っていて
「おーい、どうした?早速3年生からシツコク勧誘されて講堂から出るに出られなかったのかあ?」
そう言って天北先生は笑ったけど、あくまで冗談で言ったようで肩の力を抜いている。俺たちはただ単に二人で話し込んでいて遅れただけなので苦笑いしながら席に着いたけどね。
「おーし、それじゃあ全員そろったからshort home roomを始めるぞー」
そう言って天北先生は帰りのショートホームルームの開始を宣言したけど、特に大きな連絡事項はない。必要な事は既に午前のロングホームルームで伝達済だったからだ。ただ、最後に天北先生は「2組のclass委員は今週中に決める必要があるから、明後日の木曜日の放課後までに立候補したい奴は先生に直接、風紀委員は別に来週でも構わないけど立候補したい奴は遠慮せず先生に言ってくれ。先生は金曜日の1時間目をhome roomにしたくないから頼むぞー」と言って終了となった。
俺たちは下校となったのだが、規則では今日から2週間が体験入部期間になってるから、この後にどこかの部や同好会の活動に参加する事が出来る。特進科である2組にはスポーツ特待生がいないから、入学時点で所属する部が決まっている奴はいない。だから早速顔見知りになった連中と「演劇部を覗いて行きましょう」とか「アニ研に行ってみようぜ」などと話してる声が聞こえる。
でも、当たり前の事だが、千歳さんの周りに女子が集まってきている。
「千歳さーん、わたしと一緒に図書室へ行きましょうよ」
「音楽室に行こう!」
「ちょ、ちょっと待ったあ!美術室に決まってるでしょ?」
「えー、新館2階の茶室に行って茶道部のお茶会に参加しようよー」
「わたしと一緒に演劇部の練習を見に行こうよ」
などと10人近くの女子が寄って集って千歳さんを引っ張っていこうと頑張って(?)るけど、千歳さんは終始曖昧な返事しかせず、誰とどこの部や同好会に行くと決めた訳ではなさそうだ。
俺はというと・・・別に千歳さんと一緒に帰る約束をしている訳でもないし、かと言ってどこかの部や同好会の体験入部に興味がある訳でもないから、このまま塾へ直行しようと思っているのも事実だ。でも、何となくだが千歳さんがこの後、どこへ体験入部する気なのか気になって、まだ席を立たずにいた。
「・・・おーい、キョーゴ」
あちらからヒョロヒョロした男子が右手を上げながら俺の方へやってきた。入学2日目から俺の事を「キョーゴ」などと言う奴など一人しか考えられない。そう、シンタ君だ。
シンタ君は俺の前の席、つまり
「君はどこかの部の体験入部をやっていくのかい?」
「いや、今日の俺は塾があるから帰ろうと思ってるんだ」
「わおー、早くも塾通いですかあ?」
「ああ。普通科と違って特進科もスーパー特進科も最初からハードだから、ノンビリしていると取り残されるからね」
「ま、それも事実だけどね。正直に言うけど、僕も塾をどれにしようか決めてる段階なんだけど逆に札幌は候補が多すぎて迷うくらいだよ。参考までにキョーゴはどこに通ってるんだ?」
「東京進学予備校衛星スクール、略して東衛の
「あー、あれね。流行語大賞にもなった『今しかないでしょ』の先生がいる塾の系列だよね」
「そうだよー。俺は中学の時は札幌練習会だったけど、その流れで東衛に行ってるけどね」
「まあ、僕も候補の1つに上げてるけど、まだ決めた訳じゃあないよ。それに、折角高校生になれたというのに帰宅部というのも勿体ないような気がしてるのさ」
「どうして?」
「だってさあ、僕の場合、登校するだけで電車50分、バス20分、徒歩10分かかるんだよ。バスと電車の待ち時間を加えたら2時間近くかかるのに、それに加えて下校したその足で塾通いだよ。家と学校を往復するだけの生活なんて面白くないから放課後の2、3時間位は『人生の無駄遣い』になったとしても同じベクトルを誰かと楽しく過ごしたいと思うのはおかしいかい?」
「いや、別におかしくないと思う。むしろ普通だと思うよ」
「あー、わざわざ待っていてくれるなんてー、ウチは嬉しいの一言ですー」
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