第24話 Pandora's box

 生徒会主催のオリエンテーションが無事終わって昼休み。

 俺たち1年生は全員が午後に行われる部・同好会合同説明会に参加義務があるからお昼ご飯を食べる事になる。2年生・3年生は説明者と生徒会以外は下校、もしくは自分たちの部・同好会活動の時間となるから校内は落ち着きを取り戻し・・・といきたいのだが、それは無理だ。そんな事は容易に想像できる。

 ぜーったいに「〇〇部をよろしくお願いしまーす」「〇〇同好会は君たちを歓迎するぞー」などと食堂前の廊下には2年生、3年生が列を作って俺たちを熱烈歓迎(?)しているのが目に見えているから食堂に入るのも一苦労だというのは容易に想像がつく。もちろん、自分たちのクラスで食事をしてもいいのだが、2組の場合、初日からお弁当持参で来る奴はおらず全員が食堂の定食もしくは購買部のパンである。

 でも、俺と千歳ちとせさんは食堂へは行ってなかった。なぜなら、オリエンテーション終了後に教室へ戻った後、昼休み開始を告げるチャイムが鳴った直後に天北てんぽく先生が「あー、すまないが留辺蘂るべしべきょうだいだけは話があるから残ってくれ。他の者は昼休みにしてくれ」と言ったので、34人は教室を出て行ったが俺と千歳さんは教室に残ったからだ。

 全員がいなくなったので天北先生は俺と千歳さんを手招きして教卓に呼び寄せると、超がつく程の真面目な顔で話し始めた。

「・・・いくつか質問してもいいか?」

 2時間目のホームルーム中の天北先生は綺麗な顔に似合わず熱血先生をやってたが、今はどちらかと言えば苦悩の表情にも見える。一体、何があったんだ?

「いいですけど、何かあったんですかあ?」

 俺はあまり深刻に捉えてなかったのだが、天北先生はますます厳しい表情になった。

「・・・1時間目の双子発言についてだ」

 それだけ言うと天北先生は「はーーー」と相当長いため息をついた。千歳さんは何やら思い当たるフシがあるらしく、こちらも珍しく真面目な顔だ。

「先生・・・私と兄さんの関係をクラスのみんなは双子だと思ってるけど、実際には義理の兄妹きょうだいだから、どうすればいいのか悩んでるという事ですよね」

「・・・その通りだ。正直に話して勘違いを正すべきなのか、黙っているべきなのか、どれが正解なのか先生には分からん」

「・・・私個人の意見ですけど、私はあの時、ただ単に『兄さんの妹』としか言ってないけど、それをクラスのみんなが勝手に双子だと勘違い、まあ、たしかに3組も双子がいれば普通は4組目の双子だと思い込むのが普通だと思いますし、偶然とはいえ誕生日も同じだから普通は疑いようが無いですよ。だけど、この発言を勝手に勘違いしたのはクラスのみんなだし、私は『妹だ』としか言ってない以上、何らかの形で双子ではないと分かった段階で『義理の兄妹』という事を伝えてもいいと思ってますが、先生はどうなんでしょうか?」

 千歳さんはそれだけ言うとニコッとしたけど、天北先生は厳しい表情を崩す事なく話を続けた。

「正直に言うが、職員会議でも議題に上がって君たちの事を『義理の兄妹』と言うべきか、先生たちの間でも意見が割れたのは認める。結果論だけを言うと『本人たちの意向を尊重して、公表すべきというなら公表する、公表すべきではないというなら公表しない、時期を見て公表するならその時に公表する』という非常にgreyグレーな決着になっているんだ。だから、先生たちの間でも君たちの存在は正直『Pandora'sパンドラーズ boxボックス』と同じだ。公表してもしなくても、非常に神経を使うとだけは言っておく」

 それだけ言うと天北先生は再び「はーーー」と長いため息をついた。俺は天北先生が何故ここまで深刻に悩んでるか、千歳さんが何故楽天的になっているのかイマイチ分からないけど、俺としては無事に3年間を過ごせれば、双子でも義理でも問題ないと思ってるのは事実だ。

 だから俺はゆっくりと自分の意見を言った。

「俺たちは一度も『双子』とは言ってないし、そこはみんなが勝手に思い込んでいたという事で言い訳が立つから、今は『双子』という事でいいと思いますよ」

 それけ言うと俺は「ウンウン」と首を何度か縦に振って自分を納得させた。千歳さんもニコッツとして俺の発言に同調したから、天北先生も「ウンウン」と自分を納得させるかのように首を縦に何度か降った。

「では、今日の午後の職員会議でそう伝えておく。多分、これはtopトップ secretシークレット並みの扱いになるだろうから、それだけは承知しておいてくれ」

 天北先生はそれだけ言うと俺たちを解放してくれた。


「兄さーん、もしかして、の前を通らないと駄目なのかなあ」

「だろうね、俺としては勘弁して欲しいけど」

「ですよねー。私も正直勘弁して欲しいわよー」

「ま、本人たちは必至なんだろうけどねー」

 俺と千歳さんはみんなより遅れて食堂に向かったのだが、想像通り、食堂の前には2年生、3年生が列を作っていた。既に食事を終えて食堂から出ていく1年生もいたけど、俺たち同様に食堂へ入る1年生も当然いた。ただし、2年生、3年生の一部の生徒も食堂で食事をするから、少数ではあるが緑色や水色のネクタイ、リボンの生徒が出入りしているのも分かる。

「文芸部をよろしくお願いしまーす」

「オカルト研究会は君たちを歓迎するぞー」

「君もラグビーで汗を流そう!」

「わたしたちと一緒に競技カルタをやろう!」

 さすがに朝のような大人数ではないけど、10以上の部や同好会が看板やプラカード片手に俺たちを熱烈歓迎していて、スイーツ研究会のプラカードを持った姫川先輩もいた。まあ、ここには野球部やサッカー部のようなメジャーな部はいないという事は、ここにいる部や同好会は人数集めに必死なのだというのは容易に想像できたけどね。

 俺も千歳さんも弁当持参ではない。いや、俺も千歳さんも弁当持参できる家庭環境ではないから3年間ここで食事することになるのは分かってる。この熱烈歓迎の列(?)も今日だけの現象だから、我慢するしかあるまい。

 そんな熱例歓迎の列(?)を適当にあしらった俺と千歳さんは食券を買おうとしたのだが・・・はあ!?今日のA定食「ハンバーグライスセット」B定食「チキンカツサンドセット」は売り切れでカレーライスしか残ってないだとお!

「あっちゃー、もうカレーだけかよ!?」

「仕方ないですね、今日は1年生しかいないし、それに来るのも遅かったから用意していたA定食もB定食も完売したという事よね」

「でもさあ、ここのカレーは超がつく程の甘口じゃあないのかあ!?」

「あらー、こういうところは無難に中辛だと思うけど・・・」

「あれ?どうしてそう思う?」

「だってー、札幌ウィステリア高校の食堂がそうなんだもーん。私は情報として知ってますから」

「おいおい、他の高校がそうだからと言って、ここもそうだとは限らないぞ」

「それじゃあ兄さん、賭けをしましょう」

「はあ!?」

「もし中辛だったら兄さんが、甘口だったら私が今日のお昼ご飯代を負担するという事で」

「いいだろう、その賭け、乗ったあ!」

「その言葉、確かに聞き届けました!」

「留辺蘂君!その賭け、やめた方がいいわよー」

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