第21話 東西南北ツインズ?

「・・・よろしくお願いしまーす、以上でーす」

 出席番号34番、つまり俺の前の美々近みみちか ふみさんの自己紹介が終わり、拍手と共に彼女が座り、遂に(?)紛らわしい、変な名前の連中が揃った1年2組のブービーとして立ち上がったのが出席番号35番の俺だ。

「えーと、新札幌しんさっぽろ中学から来ました、留辺蘂るべしべ京極きょうごくです。昔は本気でプロ野球選手に憧れていたけど、体が小さいことと肩が弱い事から野球選手を諦めました。夜、星を眺めるのが好きで将来は航空機や宇宙関連の仕事に就きたいと思ってます。小学校、中学校と『キョーゴ』と呼ばれたので、別にキョーゴでも構いませんので、よろしくお願い致します」

 それだけ言うと拍手がパラパラと起きて俺は着席したけど、俺が着席する瞬間、天北てんぽく先生を含めた35人の視線が俺の方を向いているのに気づいた。いや、正しくは俺の後ろに座っている人に注目したのだろうけど、とにかく紛らわしい名前が揃った1年2組のオオトリを務めたのは千歳ちとせさんだ。

「えーと、私立札幌ウィステリア女子中学校から来ました留辺蘂千歳です。あ、天北先生ならwisteriaウィステリアでしょうけど、知っての通り『ふじ』は英名でJapaneseジャパニーズ wisteriaウィステリアという程ですから日本固有種で海外のフジはフジ属に属する別の品種ですよ。中学では園芸部に所属してましたけど清風山せいふうざん高校には園芸部がないので、どの部にするかは決めてません。これから3年間、みなさんと楽しく過ごしたいと思います」

 それだけ言うと千歳さんはニコッとしてから着席したけど・・・なんか教室が異様な雰囲気になっている事に俺は気付いた。天北先生は普通通りだけど、他の34人は明らかに頭の上に「?」を2、3個つけたような顔をしている。

「質問がありまーす」

 そう言って手を上げた女子生徒がいる。あれはたしか双子の西にし姉妹の姉、西にし神楽かぐらさんだ。千歳さんは座ったまま「どうぞ」と答えたから神楽さんも座ったまま、でも、顔は千歳さんの方を向けて

「あのー、留辺蘂という苗字は珍しいと思うし、それに今朝はたしか千歳さんは京極さんと一緒に登校していたのを見たから、わたしと同じで双子かと思ってましたけど、中学校が別という事は親戚やいとこ同士なのですかあ?」

 そう神楽さんが首を斜めにしながら言ったけど、その発言に残る全員も首を縦に振った。たしかにそれは極々普通の反応だし、普通の人の考えだ。でも、どうする?まさか本当に『義理のきょうだい』と答えるべきなのか?

 俺は咄嗟に千歳さんの顔を見たけど、千歳さんはニコッとしたまま立ち上がり

「あのー、親戚やいとこではないですよ。私は正真正銘、ここにいる兄さんの妹ですから」

 その発言をした途端、クラスの連中が一斉に「おーーー!!!」と歓声を上げた!

「おい、マジかよ!」

「このクラスには双子が4組もいるのかあ!?」

「うわー!超がつく程の奇跡としか思えないぞ」

「という事は二卵性にらんせい双生児そうせいじの兄貴と妹だよな」

「くっそー、苗字が南だったらジェミニ東西南北だったのにー」

「おい、アホ!ジェミニは双子座だから東西南北ツインズだろ?」

「あー、でも南ではないから、東西北プラスRツインズだよなあ」

「たしかに残念だよなあ」

「でもさあ、お嬢様中学出身だなんて羨ましいぞ」

「いいねえ、女子中出身の、まさに女神様じゃあないか」

 おいおい、お前らあ!俺たちは双子じゃあなくて義理のきょうだいだぞ!!それは間違ってる!!!

 俺はそう言おうとしたけど、千歳さんが左手で俺の肩を押さえたかと思うと無理矢理右手で口を塞がれた。しかも左手の人差し指を立てて口の前に持ってきて、いわゆる「シー!」をやっている。つまり「『義理のきょうだいである』と言うな」と釘を刺したのだ。

 たしかに、義理のきょうだいより双子の兄妹の方が説明が簡単だ。しかもなのだから、双子だと言っても誰も不思議に思う奴はいない。天北先生はというと少々困惑したような顔をしているけど、だからと言って「こいつらは『義理のきょうだい』だ」と無理して訂正する気もなさそうだ。

 まあ、こんな可愛い子と義理のきょうだいだったら後ろからナイフで刺されるかもしれないけど、双子の兄妹なら『羨ましい』で済むからなあ。

 でも・・・もし千歳さんが本当に千歳なら・・・さっきの言葉ではないが『東西南北ツインズ』になっただろうけど・・・。

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