第17話 いつでもあたしに声をかけていい許可を与えるから有難いと思え

 そんな俺と千歳ちとせさんにも正門が見えてきた。その正門の真下には昨日の入学式で絶叫(?)した風紀委員長、たしか駒里こまさとみどり先輩だったと思ったけど、あの先輩がこの寒い中をコートも着ないで左腕に風紀委員の腕章を巻いて立っている!足元は寒いのか今日はスカートではなくスラックスだけど、その先輩は前を通る生徒に元気よく「おはよー!」と言ってるけど絶叫してるようにしか見えないのは俺の偏見か?

 俺と千歳さんは殆ど同時に駒里緑先輩から「おはよー!」と絶叫されたけど、俺は正直ビビッて小声で「お、おはようございます」としか言えなかった。

 すると何を思ったのか、いきなり駒里緑先輩がスタスタと俺の方に向かって歩いてきた!当然だけど、俺はますますビビッてその場に立ちすくんでしまった・・・

「こらー!お前、朝から元気がないとは何事だあ!男ならもっと元気に挨拶しろー!!『おはよー!』」

「お、おはようございます・・・」

「声が小さーい、もう1度!おはようございまーす!!」

「おはようございます!」

「よーし、それでこそ男だ!あたしはお前のような奴は嫌いではないぞー。むしろ気に入った!」

「はへ?」

「だいたいさあ、この学校の男どもはあたしにペコペコする連中か胡麻を擦る連中しかいなくて退屈してたんだぞ。久しぶりにまともに挨拶をしてくれたお前を気に入った!お前、クラスと名前を言え!」

「へ?ここで言うんですか?」

「そうだ、ここで言え!これは風紀委員長命令だ」

「あのー、命令の意味がよくわからないんですけど・・・」

「あーだこーだ言ってる暇があったら黙ってあたしの指示に従え!」

「はい!1年2組、留辺蘂るべしべ京極きょうごくです」

「うん、いい名前だ。その名前、あたしは気に入った。いつでもあたしに声をかけていい許可を与えるから有難いと思え!」

「はあ、分かりました・・・」

「声が小さい!」

「はい、分かりました!先輩に声を掛けてもらえて、この留辺蘂京極、感激です!」

「うん、それでこそ男だ!あー、そういえば昨日、あたしが受付した奴に留辺蘂という名前があったなあ」

「あれ?先輩が受付してたんですかあ?」

「ああ、そうだぞ。なにしろ2組は同じ苗字の奴とか似たような名前の奴が揃っていて結構大変だったんだぞ」

 そう言ったかと思うと駒里緑先輩は俺の背中を『バシッ』と叩いて

「さあ、君も我が清風山せいふうざん高校の一員だ。こいつら全員が君を歓迎しているから遠慮なく歓迎されて来い!」

 それだけ言うと今度は千歳さんに向かって「おはよー!」と再び絶叫してたけど、千歳さんはニコッと微笑んで「おはようございます」と言ったから、たちまち周囲にいた1年生だけでなく2年生も3年生も一斉に訳の分からん歓声(?)を上げたのは言うまでもなかった。そんな中を駒里緑先輩は右手で俺の背中を、左手で千歳さんの背中を押しながら

「さあ、君たちの楽しい学校生活はどの部と共に過ごす事になるのかな?」

 そう言って俺と千歳さんの背中を『ドンッ!』と叩いて送り出した(?)から、俺も千歳さんも思わず転びそうになったけど、その俺たちを取り囲むようにして2年生、3年生の集団が一斉に襲い掛かって(?)きた!

「新聞部です!一緒に新聞を作りませんか?」

「演劇部でーす!君も未来のスターを目指して頑張ろう!」

「我が弓道部は君を歓迎するぞ!」

「君も我々クイズ研究会と一緒に『高校生クイズキング選手権』に出ようぜ!」

「山岳部をよろしく!」

 とまあ、これ以外にも俺を取り囲んだ十人以上が入れ替わり立ち代わり声を掛けてきて、中にはお手製のパンフレットを渡す人もいたし、ほとんど揉みくちゃにされて、ようやく解放されたに等しかった。俺に声を掛けてはこなかったけど、あっちにはフランケンシュタインや魔女のコスプレをした男女が別の1年生に声を掛けていたし、柔道着や剣道着を着た先輩、プラカードにデカデカと『美術部をヨロシク』とか『文芸部❤』などと書いて絶叫している2年生と3年生の集団、羽織袴姿で『カルタ同好会お願いしまーす』と叫んでいる女子もいた。

 因みに千歳さんはというと・・・俺以上に揉みくちゃにされている!しかも野球部やサッカー部、ラグビー部などのユニフォームを着た男子と、制服姿の女子が入り乱れて千歳さんの取り合いをしてるようにしか見えない!運動部の男子は明らかにマネージャーとしての勧誘だし、女子は文化系だと思うけど自分たちの部に引き込もうとして必至になっているとしか思えない!さすがの千歳さんも困惑の表情を隠しきれず、しかも次々と声を掛けられているし、とうとう3年生同士が千歳さんに声を掛ける順番を巡って口論を始める始末で、慌てて風紀委員の腕章をした生徒と見回りの先生と思われる人が飛んでくる一幕もあった。


「もしかして、留辺蘂君?」


 いきなり俺は背後から声を掛けられたから慌ててその方向を振り向いたけど、そこにいたのは水色リボンをつけた女子生徒であった。

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