駒里姉妹

第16話 超可愛い彼女さんとか幼馴染さんが兄さんをお迎えに上がるかどうかを監視してるだけです

「「行ってきまーす」」

「気を付けて行けよー」

「そういう父さんたちも気を付けてよー」

「はいはい。キョーゴ君は塾も忘れないでよねー」

「分かってますよ」

「それじゃあ、お互いに気を付けて」

「「りょーかい」」


 4月7日の火曜日、今日が実質最初の登校だ。でも、授業と言ってもホームルームとオリエンテーション、午後の部・同好会合同説明会だけだから鞄は軽い。

 父さんも母さんも俺たちと一緒の時間に出た。母さんの場合、今までよりも職場に近くなったというのもあるけど、二人とも各々の車での出勤だ。

 俺の場合、3月までと方向は逆だ。新札幌しんさっぽろ中学は家の前の道を右へ行くのだが、清風山せいふうざん高校へは左へ行くからだ。ここから徒歩で15分から20分程度で学校へ着くから、この時間に家を出ると早い位だけど、まあ、今日はただ単に父さんたちと一緒の時間に家を出ただけだが。

 さすがにこの時期に制服だけで登校するのは寒い。だから今日の俺はパーカーを制服の上に来ている。その俺だが・・・一人で行くつもりだったのだが・・・どういう理由かは分からないけど、俺の横には制服の上にコートを着た千歳ちとせさんがいる。それも千歳スマイル以上のニコニコ顔で歩いている。

「千歳さーん、言ってる事とやってる事が矛盾してるぞー」

「えっ?何の事ですかあ!?」

「惚けないで下さーい。土曜日に言ってましたよねえ、一緒に行かないと」

「あらー、私は兄さんに言った通りの事をしてるだけですよ」

「へ?」

「超可愛い彼女さんとか幼馴染さんが兄さんをお迎えに上がるかどうかを監視してるだけです」

「俺にはそんな子はいないぞ!」

「ホントですかあ?」

「勘弁してくれよー」

「まあ、家には来ないけど途中で待ち合わせして一緒に行く可能性がありますからねー」

「絶対にない!だいたい、入学式翌日に女の子と一緒に登校したら他の連中に何を言われるか想像出来ないぞ!」

「兄さん、それは暴言です!」

「へ?」

「兄さんは私を女の子扱いしてないと言ってるのと同じです!ぷんぷーん!!」

 そう言って千歳さんは腰に手を当てながら俺に抗議したけど、本当に怒っている訳ではなさそうだ。その証拠に顔は笑っている。

「そ、そうは言ってないぞ」

「なら、私が兄さんと一緒に歩いても問題ないですよね」

「だーかーら、俺と千歳さんが一緒に登校したら、あらぬ噂を立てられて入学早々困る事にならないか?」

「べっつにー。ズバリ『妹です!』と言えば済む話です!」

 そう言うと今度は千歳さんは少し体を反らしながら腰に手を当てて『エッヘン』というポーズをしている。しかも今度は超がつく程の真面目な顔だ。だから逆に俺の方が困惑してるぞ!?

「本気かよ!?」

「何も隠す必要ないでしょ?どうせ担任の先生とか教頭先生は知ってる話なのだから」

「そりゃあ、既に母さんが先週のうちに学校へ書類を出してるし、その時に説明をしてるのも知ってるけど、大丈夫かよ!?」

「大丈夫大丈夫!大船に乗った気でいて下さい!!」

「はあああああーーーー・・・」

「何を大きなため息をついてるんですか?それが高校1年生のやる事だとは思えません!もっとシャキッとして下さい」

「はいはい、わかりました」

 千歳さーん、一体、何をしたいんですかあ!?明らかに俺を揶揄っているとしか思えないんですけどー。俺を知ってる奴に会ったら本気で「義理の妹です」とか答えるつもりなのかあ!?

 他にも色々とボヤキ節を堂々と言いたのだが、それを言うと折角ニコニコしてる千歳さんがヘソを曲げそうだから黙ってますけど、とにかく知ってる奴に会わないように・・・と思いつつも少しは自慢したい気が無い訳でもない。こんな可愛い子が俺の妹・・・い、いや、ちょっと待て!俺にとって妹は千歳のみ!千歳さんはあくまで義理の妹だから混同してはいけない!でも、こんな可愛い義理の妹が一緒に登校してくれるなら・・・ちょっと位は自慢しても千歳に怒られない・・・などと考えてはいかーん!!

 ただ、俺の期待(?)とは裏腹に俺の知ってる奴に遭遇(?)しない。まあ、俺の家は元々新札幌中学校、新札幌小学校の校区の一番端なのだ。しかも、3つの中学校区の境界付近に俺の家があるし、中学に行く時とは逆方向の高校に通う以上、俺の同級生や中学の先輩に会う可能性は限りなく低い。そんな訳だから、いつまで経っても俺の知ってる奴に会わないのだ。逆に清風山高校の生徒たちと次々に会ってる。もちろん、俺が清風山高校で会話をした事がある人は、昨日の生徒会三役を含めて皆無・・・い、いや、違う、それ以外の人とは接点が無いに等しい。

 赤いネクタイやリボンの人は同じ1年生だと分かる。1年2組の連中を数人見たが、当たり前だが名前までは知らない。それに緑色ネクタイとリボンの3年生、水色ネクタイとリボンの2年生も大勢見たけど、俺の知ってる人はどこにもいない。でも・・・なぜか俺の方を注目している!い、いや、恐らく、というより間違いなく隣を歩いている千歳さんに注目しているとしか思えない!!

 その千歳さんだけど俺の右、距離にして30センチも距離が離れていないところを歩いているけど、そんなに俺と一緒に歩くのが楽しいのでしょうか?俺にはサッパリ分かりませーん。

 それに、何となくだけど、い、いや、何となくではなくて周りにいる1年生の会話が俺の耳にも届いてるんですけどー。

「・・・おい、あれって確か昨日の代表挨拶をした・・・」

「あー!そう言われてみれば確かにそうだあ」

「うわっ、たしかに可愛いと思ったけど、近くで見たら超可愛いじゃあないか!」

「はーーー・・・あれじゃあ私も勝てないわね」

「くっそー、あんなのが相手だったら誰も私を相手にしてくれないかも・・・」

 はいはい、適当に言ってて下さい。それに、あそこにいる3年生の会話も俺の耳に届いてるんですけどお。

「おい、あれが弟が言ってた新入生代表挨拶をした子だ。写真を見せてくれたから間違いない」

「マジかよ!?あんな可愛い子が今年の主席入学者だというのか?」

「うわー、かえでさんやみどりさんも真っ青じゃあないのか?」

「いや、さすがに楓さんや緑さんには敵わないだろ?」

「オレは誰が上でもいいからお近づきになりたーい」

「あー、お前は絶対に無理!」

「うるさい!お前に言われたくないぞ」

「ちょっとー、あんたたち、鏡を見てから物を言いなさいよー」

「そうよそうよ、モテない男同士で勝手に盛り上がりなさーい」

「ウルサイ!彼氏いない歴イコール年齢のお前らに言われたくないぞ」

「黙れ変態!あんたたちと同類されたら迷惑よ!」

 おいおい、先輩たちが勝手に喧嘩するのを止める気はないけど、たった1日で千歳さんは全校レベルの有名人になっていたんですかあ!?それに引き換え、俺の事を知ってる奴なんて誰もいないし、俺の学校で唯一同じ高校に進学した奴は俺とは全然接点が無いスポーツ特待生でハッキリ言ってサッカー馬鹿だから、趣味・嗜好が全く合わない奴だ。新しい友を早く見つけて「ぼっち」確定だけは避けないと・・・。

 そんな千歳さんだけど、いきなり俺の方に顔を向けたかと思うと

「兄さーん、なーんか注目されてますよー」

「俺じゃあないぞ。千歳さんの方だよ」

「それはそうでしょうね」

「お前さあ、分かってて俺に話を振ったのかあ?」

「まあ、そうとも言えますね。まさに『天は二物を与えた』とでも言うべきか、『才色兼備』を具現化した存在とでも言うべきか、とにかくそれが留辺蘂るべしべ千歳ですからねー」

「はいはい、わかりましたよ、どうせ俺はその他大勢の中の一人ですから」

「兄さーん、ジョークを真に受けないで下さーい。本気で拗ねないで下さいよお」

「はー・・・有名人が身近にいる事が幸なのか不幸なのか、俺には分からん」

「幸に決まってるでしょ?私が言うんだから間違いありません」

「強気だなー」

「そうかしら?」

「逆に可愛い過ぎて男どもが二の足を踏むかもね」

「兄さんとしてはと思いますよ」

「どういう意味だ?」

「そのままの意味ですよ」

「へ?・・・意味不明」

「ホントに兄さんは鈍い・・・まあ、これを言っても始まらないですね、鈍すぎるにも程があります。はああああああああああーーーーーーーーーーーー・・・」

「?????」

 そういう訳だから、俺と千歳さんの周りには誰もいなくて、というより周りが俺たちと意識して距離を取っているように見えるんですけど・・・

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