第11話 まさに女神様が歩いているとしか思えない
入学式が始まった。
俺たち1年生は難しい事をやる訳ではない。吹奏楽部の生演奏に合わせて1組から入場した後は座席に座って8組までの全員が入場してくるのを待つだけだ。各クラス2列だから、俺の左には
あ、そうそう、参考までにいっておくけど千歳さんが拗ねていたのはあの時だけ。教室を出てからはずっと『千歳スマイル』だ。
俺たち新1年生が入学式で声を出すのは一人を除いて2回だけ。
最初は国家斉唱の時。まあ、これは当たり前だ。
その次が、国歌斉唱の後にやる新入生の名前の読み上げだ。1組の出席番号1番から8組の36番までの名前をクラス担任が読み上げ、名前を呼ばれたら「はい」と返事をして立ち上がる。ただそれだけの事だ。ある意味アホらしいけど、中学の入学式でも同じ事をやったから、別に変だとは思わなかった。
1組の男性教師が1組の出席番号1番から順に読み上げ、36番まで読み上げたところで1組は全員座り次は2組だ。読み上げは各クラスの担任の役割だから、俺たち2組の生徒の名前を読み上げるのは
「1年2組・・・
「はい」
「
「はい」
「
「はい」
名前を呼ばれた人は「はい」と返事をして順に立ちあがり、もうすぐ俺の番だ。
「・・・・
「はい」
「留辺蘂
「はい」
「以上36名。着席」
天北先生の号令で全員が席に座り、今度は3組だから天北先生から背の少し低い女性の先生に変わり、3組の1番から名前を読み上げ始めた。
これで俺が入学式で声を出すのは終わり。後は理事長や校長先生、PTA会長の挨拶の前後で号令に合わせて起立し、礼をした後に着席をするだけで、中学の入学式の時と殆ど同じだ。PTA会長の挨拶の後は在校生代表の挨拶、つまり生徒会長の挨拶があるのも中学の入学式の時と同じだ。
『在校生代表挨拶 生徒会長 3年2組
「はい」
おー、生徒会長は男、それも2組という事は俺と同じ特進科の生徒かあ。一体、どんな人なんだろう。
俺はそう思って興味津々にステージの方を見てたけど、ステージの右下の階段からステージ上に上がってきた生徒会長を見て俺は思わず「はへ?」と言いそうになった。理事長や校長先生、PTA会長は俺から見ても相当背が高い人だなというのは容易に見極めれたけど、ステージに上がってきた生徒会長は明らかに背が低い。一見して頼りなさそうなイメージを持ったけど、在校生代表としての挨拶は、一言で言えば『聞く者を魅了する』に尽きる。名門
だだ、さっきも言ったが288人の1年生のうち、287人は入学式でもう声を発する場はないけど、1人だけ声を発する人物がいる。それは在校生代表挨拶の後にある新入生代表挨拶だ。
毎年、清風山高校ではその年の主席入学者が伝統的に行っているのは有名な話だ。まあ、決して明文化されている訳ではないというのが俺の中学の卒業生で清風山高校に進学した人たちから伝わっているけど、とにかく名誉ある新入生代表挨拶をするのは一体誰なのだろう?清風山高校に『特進科』が出来たのは今から30年以上も前の事だが、それ以降『普通科』で新入生代表挨拶をした人は誰もいない。3年前に『特進科』が『スーパー特進科』と『特進科』の2つに分かれたけど、一昨年は『特進科』、去年は『スーパー特進科』の男子生徒が新入生代表挨拶をしたというのは俺も情報として知っている。
今年は一体、誰がやるんだろう・・・。
『新入生代表挨拶 1年2組 留辺蘂千歳』
「はい」
俺は最初、『るべしべ』という言葉を聞いた瞬間、俺の事かと思って心臓が止まるかという衝撃を覚えた。何しろ俺の苗字は珍しいから『るべしべ』と言われたら今まで俺以外の人を指すことはあり得なかったから。だが、当然の事とはいえ俺が新入生代表挨拶をやるなら事前に学校側から話が来ていて当たり前なのだが、来てないから俺ではない。だから、その後の『ちとせ』という言葉、その後に続いて女性の声で「はい」という言葉が発せられた瞬間、俺は思わず自分の左側を見てしまった。千歳さんは立ち上がった後、俺に向かって『ニコッ』と微笑んだかと思うと超真面目な顔になって自分の左側に出てから一度後ろに行き、時計と反対周りでステージに向かって歩いていった。当然だが全校生徒だけでなく保護者の視線も千歳さんに集中しているけど、その視線を受けても堂々と歩く姿は、まさに女神様が歩いているとしか思えない。
はーー・・・父さんと母さん、それに千歳さんも何故入学式の話題を意図的にしてなかったのか、その意味をようやく理解出来た。義理とはいえ、妹が主席入学者だったら兄貴としての立場がないからなあ。事実は事実として受け止めるしかないけど、少し悔しいという気持ちがあるのも事実だ。
その千歳さんがステージに上がる前に理事長や校長先生を始めとした先生方や来賓の方々が座っている席に向かって一礼をして、ステージに上がって壇の前に立った。千歳さんは緊張を解すためか軽く「はー」と息を吐いた後、マイクに向かって話し始めた。
「みなさんおはようございます、私の名前は留辺蘂千歳です。一昨年の記録的な厳冬と打って変わって今年は記録的な暖冬となったので周囲の雪はすっかり無くなってしまいましたが、山々の
そう言うと千歳さんはニコっとして一礼した。会場内に盛大な拍手と歓声が沸き上がり、同時に「おー、可愛い」「めっちゃタイプじゃん」「バカ、お前には高嶺の花だ」「あーん、羨ましいなあ、あんなに可愛くて」「わたしも、あの子が相手だったら勝てないわ。はあ」などと声がして中にはスマホで写真を撮る奴まで出る始末だ。
しかも、なぜか千歳さんが席に座るまで拍手が続いたから先生方も少々困惑しているように見えたのは俺だけか?
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