留辺蘂京極と留辺蘂千歳の入学式

第8話 大胆すぎませんかあ!?

 日付が変わり、今日は4月6日の月曜日。入学式当日だ。

 今朝の俺は気合が入っていて目覚まし時計が鳴る10分以上前に目覚めた。当然だけど俺が一番手でリビングに現れ・・・ではなかった。

「あれっ?俺が一番遅いの?」

「兄さん、ホントに遅すぎます!」

「キョーゴ君、遅刻よー」

「そうだぞ、京極きょうごく、約束の時間を20分近く過ぎてるぞ」

「うっそだー、俺はちゃんと6時半に目覚まし時計をセットしてあったぞ」

「だーかーら、6時に起きて朝ごはんを食べるって約束になってたのを兄さんは忘れてたんですか?」

「マジ!?」

「その理由もちゃんと話しましたけど、兄さん、忘れたなどと言いませんよね」

「・・・・・ (・_・;)」

 そうだ、すっかり忘れてた・・・入学式の受付そのものは午前8時半からだけど、毎年の事だが、正門のところにある「〇〇年度 清風山せいふうざん高校入学式」という立て看板の前で記念撮影する為の長蛇の列が出来るから、最低でも1時間前に行かないと入学式前に撮影出来ない。入学式前に撮影できなかった人は入学式後にやってるけど、これまた物凄い長蛇の列になる。それが嫌だから、どの新入生も保護者も年々早く学校に来る傾向があったんだ・・・。

「はーーーー、さすがにあと5分たって起きてこなかったら本気で保冷剤を持って部屋に押し掛けようと思ってましたけど、さすがに起きてきたからやりませんけど気を付けて下さい」

「すみません・・・」

「キョーゴ君、そんな事より早くご飯を食べましょう」

「兄さん、急いで食べましょう」

「はいはい」

 俺が母さんと千歳ちとせさんに急かされる形で座ったところで全員が朝ご飯を食べ始めた。今朝のメニューはご飯と豆腐の味噌汁、ベーコンエッグとアスパラのバター炒め、金平きんぴら牛蒡ごぼうだ。他には梅干しと沢庵たくあんがある。飲み物はセルフだから俺はコーヒーだけど和洋わよう折衷せっちゅうの朝食?という訳ではないけど、そんなツッコミを入れるほどKYな俺ではない。

 ご飯を食べ終わった順に2階に上がって着替え始める事になるけど、母さんは新しく買い揃えた食器洗浄機に食器を入れてから2階に行く。俺は1番最初に食べ終わって顔を洗ってから2階に行った。

 自分の部屋に戻った俺は着替えを始めた。クローゼットから皺一つない真新しいスクールシャツとブレザー、スラックスを取り出すと心がワクワクしてきたのが自分でも分かった。全て着替え終わると俺は部屋のスタンドミラーの前に立ったけど、何となくだが違和感があるのは初日だから仕方ないのかな。

 いわゆる黄土色のブレザーの左胸の部分にはSHS(SEIFU^ZAN HIGH SCHOOL)のアルファベット三文字を意匠化したデザインが描かれていて、学年指定色である赤色のネクタイと薄いグレー系のスラックスだが、これらは創立50周年の時に詰襟学生服・セーラー服からブレザーに変わった以降、20年以上変わっていない伝統の制服だ。

 俺は今度は1番先に着替えてリビングにやってきたけど、次にリビングに現れたのは千歳ちとせさんだった。ブレザーは俺と同じだけど、女子だから学校指定のブラウスと、紺と赤色系のチェック柄のスカートだ。胸元には俺と違ってリボンをつけているが同じ1年生なので赤色だ。女子にもスカートと同じ柄のスラックスがあるけど、どうやら今日はスカートのようだ。まだ外は肌寒い季節だからストッキングを履いてるけど、姫カットの前髪にセミロングのストレートヘアーを右手でサラリと払う仕草は、まさに『究極の妹』だ。い、いや、俺にとって本当の妹はみなみ千歳ちとせだけであり、留辺蘂るべしべ千歳ちとせは『』だ!

 でも、正直に言うが千歳には申し訳ないけど、俺、千歳さんほどの可愛い子を塾でも中学でも見た事ないから乗り換えそうで怖いです。

「どうだ、今度は俺が一番だったぞ」

「そりゃあそうでしょ?私と違って身だしなみに気を配ってないでしょうからね」

「あー、それは言い過ぎだぞ。俺だって気にするところは気にするぞ」

「ほんとかなあ?」

 そう言って千歳さんはいきなり俺に近づいてきて、しかも両手を広げて首の後ろに伸ばした。ちょ、ちょっと千歳さん!父さんと母さんがいないからって大胆すぎませんかあ!?

「・・・動かないで」

「はい!」

 俺は千歳さんの大胆な行動にマジで硬直してしまった。こ、これって・・・ま、まさか・・・キ・・・

「・・・ブレザーの襟の後ろ側が立ってるわよ」

「へ?」

「ったくー、兄さんは無頓着すぎます。ちゃんと鏡で服装をチェックしたんですか?」

「ま、まー、そのー」

「はーい、御終いでーす」

 そう言って千歳さんは俺から離れるとニコッと微笑んだけど、その仕草は、まるで何もなかったかのように・・・俺は相当冷や汗をかいたけど、あれは単なる俺の早とちり?

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