第3話 俺が兄貴だ!
普通に考えれば誕生日が早い方が兄、または姉という事になる。当たり前の事だが義理のきょうだいでも適用される。でも、さっき
俺は再び心臓がドクンドクンと激しく動いている事を自覚せざるを得なかった・・・見た目の雰囲気も似ている、左目の下にもホクロがある、それに名前も『千歳』で、誕生日も同じ・・・これって、どう見ても・・・
だが、さっきの父さんや汐見さん、千歳さんの行動は、明らかに俺の想像している事を否定する行動だ。あまりにも状況が似ているから俺の方が混乱してるけど、この三人の行動からすれば『
俺は動揺を抑えるのに少し時間が掛ったけど、落ち着いた頃を見計らって
「うーん、それは俺と千歳さんが同じ誕生日だという意味に捉えていいのかなあ」
「そうなのよー。わたしも
「そうね、私も聞いた時には開いた口が塞がらなかったというのが正直な感想よ。だから
そう言うと千歳さんはニコッと微笑んだ。
俺は一瞬迷ったけど、答えは決まっていた。
「それは決まってる。俺が兄貴だ!」
「ひゅー、さすが男の子ね。同い年のお姉ちゃんは嫌なのかなあ」
「あー、いや、そうじゃあなくて、俺の母子手帳には午前0時10分生まれと書いてあるから、俺が弟になる確率は144分の1だよ」
「だそうです。千歳、あなたはそれでいいの?」
汐見さんはそう言ってニコッとしながら千歳さんの方を振り向いたけど、千歳さんもニコッとしながら
「私はいいわよー。仮に京極君が『弟にする』って言ったら私が反対したくらいよ」
「あらー、どうして?」
「うーん、こう言うと京極君が怒るかもしれないけど、正直言って『きょうごくくん』って言うと『く』が重なるから言い辛いのね。でも私の方が妹なら『兄さん』で済ます事が出来るから楽だなあって思ってたのも事実よ。それに、私は昔からお兄ちゃんという存在に憧れてたからねー」
「だそうです。京極君はそれでいいの?」
「俺は千歳さんがいいならいいです。それに『く』が重なるのが言い辛いのは事実だから、小学校でも中学校でも男からは『キョーゴ』女子からは『キョーゴ君』と呼ばれてのは事実さ。実際、『るべしべ』よりは『キョーゴ』の方が言いやすいでしょ?」
「たしかにそうよね。それじゃあ、わたしも『キョーゴ君』と呼ぼうかなあ」
「俺は構いませんよ」
「それじゃあ、これからもヨロシクね、キョーゴ君」
「私もヨロシクね、兄さん」
「はいはい、わかりましたよ」
父さんは何も口を挟まなかったけど、ずっとニコニコしているという事は決まった事に従うという意味だろう。俺はそう解釈していたし、実際、父さんのその後の態度がそれを証明している。
結局、俺たちは2時間くらいボストで喋っていたけど俺の塾の都合でお開きとなった。
「それじゃあ兄さん、一週間後に」
「ああ、待ってるぞ」
そう言うと汐見さんと千歳さんは軽自動車に乗り込んで先に駐車場を左折で出て行った。俺の目的地はそれとは逆方向になるから追いかける事はせず、父さんも信号が変わるタイミングで右折して出て行った。
俺は内心、モヤモヤ感が無い訳ではないけど、だからと言ってスッキリ感が無い訳でもない。ただ、それを口に出していうと千歳さんに失礼だと思って言わないだけだ。
掛澗千歳、いや、来週の土曜日に引っ越してくる時には
俺の妹は南千歳だけであり、留辺蘂千歳とは別人だ。たとえ似ていたとしても・・・。
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