第7話「男女入れ替え物語 その3」



「先生~、終わりました!」

「どれどれ?」


 真紀は僕の肩に手を置き、すっかり変わってしまった僕を石井先生と奥野先生に見せる。


「うん。なかなか可愛いじゃないか♪」

「そうですね! そこらへんの女子生徒より全然可愛いです」

「それ私のことですか~?」

「ち、違いますって~」


 はしゃぐ女性陣。みんなこの状況を楽しんでるじゃないか……。


「でも、確かに似合ってるわよ。満君」

「そ、そう?」


 僕は改めて自分の姿を鏡で確認する。カッターシャツは男物と女物は共通だから、変わったのはサイズだけだ。もちろんいつも着ているやつより小さくなった。ネクタイの代わりにリボンをつけている。薄い赤がよく目立つ。


 そして膝が少し見えるくらいの短いプリーツスカート。真紀が初登校で履いてるのを見た時、すっごく短いなぁって思ったけど、実際に自分が履いてみるとよくわかる。確かに、風でも吹いたら簡単に下着が見えてしまいそうだ。それに、括れがあるからだろうけど、ベルトも無しに腰に収まるのがなんとも不思議だ。そしてスースーして落ち着かない……。太股同士が擦れ合う感触が頼りない。女の子はいつもこんなのを履いて学校に着ているのか。見えない努力を感じる。


 女子の制服に身を包み、見た目は完全に女の子だ。決して女装ではないが、女装している気分になる。


「さっそくみんなにも見せてきましょうよ♪」

「え?」


 そうか。この姿をクラスメイトのみんなにも見せないといけないのか。僕はため息をつく。




「というわけで色々大変だろうから、みんな、彼? いや……彼女? とにかく満君をサポートしてあげてくれ」


 石井先生がみんなに事情をおおざっぱに説明する。僕は朝のホームルームで教壇の前に立つ。みんなまじまじと僕を見つめる。当たり前だろうけど、恥ずかしさがさらに募る。


「すごいわね。満君めっちゃ可愛くなってんじゃん」

「メガネッ娘……」

「起きたら女になってたって……どういうことだ……」


 案の定いつものメンバーからは興味を持たれる。綾葉ちゃん達は僕の周りを囲んでじろじろ見てくる。


「あまり見ないでよ。恥ずかしいから……///」

「あ~♪ その表情いいわぁ~♪ 最高!」

「綾葉ちゃん、後でその写真私に送って!」

「綾葉、私にも」

「お前ら落ち着けよ」


 女子達が軽く撮影会を始める。気持ちはわかるけど、すぐ撮るのやめてほしいんだけど……。すぐ後ろでも他の男子からの視線が気になる。


「結婚してぇ……」

「抱きしめてぇ……」

「ヤりてぇ……」


 恥ずかし過ぎる。恥ずかしさを感じる度に顔が赤くなるのがわかる。それを見てみんながさらにヒートアップする。悪循環だ。あれ? そういえば裕介君はどこだ? 彼が一番オーバーなリアクションをすると思ったのに。


「……」


 裕介君は教室の端にある自分の席から静かにこちらを眺めている。


「!?」


 しかし、僕が見ているのに気づくと、慌ててそっぽを向く。どうしたんだろう?




 その後、教室で授業を受けている間もスカートの頼りなさや無駄に大きい胸に集中力を乱される。思わず脚を開いて座ってしまい、男子に下着を見られる。外を歩いていると、風でスカートが捲れ上がり、また男子に下着を見られる。体育の授業で女の子達の前で体力の無さを見せつけて公開処刑をくらう(逆にそれが可愛くてよかったという評価をもらった。僕はよくない)。お昼ご飯はいつも食べられた量が食べられず、生まれて初めてお母さんが作ってくれたお弁当を残してしまう。間違えて男子トイレに入って男子達をヒヤヒヤさせてしまい、女子トイレに入っても女の子の体での用の足し方がわからず、真紀に手伝ってもらう。


「あぁぁぁぁぁぁぁ……」

「満~、大丈夫か~?」


 非常に疲れた。僕は机に突伏する。胸が押し潰されて苦しい。結局この胸が一番厄介だ。男子の視線を集めるし、女の子達はふざけて揉んでくるし、歩く度に軽く揺れるし、うっとうしくて仕方ない。でももう家に帰るだけ。あ、お風呂どうしよう……。女の子の体の洗い方なんて知らないよ。


「ねぇ、満君。この後一緒にショッピング行かない? 可愛い洋服や下着選んであげる!」

「満君のために水着選んであげる。そしてみんなでもう一回海行こ」


 今日は綾葉ちゃんと美咲ちゃんを中心に女の子が色々なことに誘ってくる。だが、それらは全部断った。女の子は人付き合いもうまくしていかなければならないと真紀は言っていたが、今日は本当に疲れたから早く帰らせて欲しい。


「……満」


 今度は男子か。何の用かな? えっちなお願いごとはダメだよ?


「なぁに? ……って、裕介君!?」


 話しかけてきたのは裕介君だった。いつもハイテンションな彼だが、今日は珍しく大人しめだった。そんな彼がやっと話しかけてくれた。今日はどうしたのか。


「この後、中庭に来てくれ。大事な話がある」

「え? うん。わかった……」

「先に行って待ってる」


 要件だけ言って、裕介君は教室を出ていった。


「裕介君、何を話すつもりなんだろう?」

「さぁ? とにかく行ってきなよ」


 真紀に促される。とりあえず僕は向かう。






「来たな」

「えっと……大事な話って何? 裕介君」


 僕と裕介君は中庭にある噴水の前に来た。二人で面と面向かって話を始める。真紀や綾葉ちゃん達も着いてきて、噴水の反対側から僕達の様子を観察する。


「えっと、今日の朝から思ってたことなんだが……」

「……うん」


 裕介君はごくりと唾を飲んで言い放った。















「好きだ」

「……え?」


 裕介君はとんでもない発言をした。


「満、お前のことが好きだ! お前があまりに可愛過ぎたからつい惚れちまった! 頼む! 俺と付き合ってくれ~!!!」

「えぇ!?」

「えぇぇぇぇ~!?」


 噴水の反対側から真紀達の驚きの声が聞こえる。まさか告白されるとは。しかも裕介君に。えっと……これは何かのおふざけだよね。


「じょっ、冗談だよね?」

「違う! 俺は本気だ! 本気でお前のことが好きになった!」


 本気なの!? いや、無理だよ。付き合うなんて。だって僕と裕介君は男同士で……いや今は僕は女の子だけど、それでもやっぱりダメ~!


「む、無理だよ。僕、元男だし……」

「そんなの関係ねぇ! 今のお前はどこからどう見ても立派な女だ。あとは好きな気持ちさえあれば大丈夫だ」


 全然大丈夫じゃないってば! 体は女の子でも心は男だもん! 裕介君のこと、親友としては好きだけど、恋愛対象としては見てないから!


「ど、どうしよう!? 裕介がついに壊れたわ!」

「愛に性別は関係無い」

「そんなこと言ってる場合じゃねぇだろ!」

「えっと……ええっと……」


 真紀達も突然の裕介君の問題発言に戸惑っている。


「でも、僕……」

「頼む! 俺、今すぐお前を抱き締めたくて、押し倒したくておかしくなってんだ! お前が可愛過ぎるのがいけねぇんだ。どうか受け入れてくれ……」


 えぇ!? どうしよう。この場合どうすれば……。


「おい、どうすんだよ!?」

「考えてみれば確かに問題。裕介君には綾葉がいる。このままじゃ満君に取られる」

「ちょっと美咲! こんな時に何言ってんのよ!」

「ええっと……」


 真紀達はまだ戸惑っている。


「ゆ、裕介君、一回落ち着いて……」

「あぁもう我慢できねぇ! すまん!」

「えっ? ひゃっ……///」


 僕は思い切り裕介君に押し倒される。裕介君は僕に覆い被さる。腕を掴まれて身動きが取れなくなる。裕介君の呼吸が荒くなる。息が顔に当たるほど近い。


「ゆ、裕介君……///」

「お前が悪いんだ……お前が可愛いから……」


 ヤバいヤバいヤバいヤバい! 裕介君の顔がだんだん近づいてくる。抵抗しようにも裕介君の力が強すぎて、女の子の体じゃ敵わない。ていうか、なんで僕の顔赤くなってるんだ。ますます裕介君を興奮させてしまうじゃないか。


「満……」

「だ、だめぇ……///」


 まずい! 誰か助けて!!!






「目を覚ましなさぁ~い!!!」


 バーン

 誰かが勢いよく飛び出し、裕介君の顔に蹴りを入れる。脚が僕の顔面スレスレを横切るのでびっくりした。


 バッシャーン

 裕介君は吹っ飛んで噴水に落ちる。


「はっ! 俺は……何を……」


 裕介君は正気を取り戻し、水面から顔を出す。


「目を覚ましなさい! 裕介!」


 裕介君に蹴りを入れたのは綾葉ちゃんだった。


「そんなに女の子と付き合いたいなら私が付き合ってあげるわよ!///」


 綾葉ちゃんは赤面しながら叫んだ。ここで告白って……。


「綾葉、ありがとう。一緒に二人三脚でペア組んだもんな。これからも一生ペア組んでくれ」


 裕介君は完全に落ち着きを取り戻した。制服を絞りながらゆっくりと噴水から出る。


「すまん、満。襲おうとして……」

「う、うん……。大丈夫だよ。綾葉ちゃんもありがとうね」

「えぇ」


 綾葉ちゃんのおかげで助かった。あのまま襲われてたらどうなっていたことか……。


「でも、可愛いのは事実だぜ♪ 女の満も結構アリだな。今度一緒にお茶でも……」

「こら! 付き合って秒で浮気するな! どうせあの巨乳に釣られたんでしょう!? 私だって巨乳なんだから!」


 綾葉ちゃんは裕介君の頬をつねる。お似合いだなぁ ……この二人。


「一件落着……なのか? これ?」

「多分ね」

「ふぅ……」


 真紀は胸を撫で下ろした。


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