第8話「男女入れ替え物語 その4」



 その後、家に帰ってお風呂に入った。真紀に手伝ってもらいながら体を洗った。途中でお母さんが入ってきて、めちゃくちゃ体をもみくちゃにされた。速やかに晩ご飯、歯磨き、着替えも済ませて部屋に戻った。


「わかったでしょ? 女の子ってすっごく大変なのよ」

「うん、わかったよ」


 女の子の大変さが痛いほどにわかった。女の子は様々な不利を抱えつつも、たくましく生きている。男にはとうてい理解し得ない悩みがある。真紀と出会っていなければわかることがなかった。貴重な経験をさせてもらったな。


「色々助けてくれてありがとう。真紀……」

「どういたしまして」

「それじゃあ、元に戻して」

「え?」


 真紀が固まる。まさか、冗談だよね?


「戻し方……わからない」

「えぇ~!?」


 ちょっと待って! 今さらそんなこと言われたって……じゃあ、僕ずっとこのまま!?


「どうするの!?」

「どうしよう……(笑)」


 ガチャッ

 ドアを開け、また愛さんが入ってきた。


「あんた達、まだ起きてたの? 夜更かしは女の肌の敵よ。早く寝なさい」

「ママ! 満君を元に戻すにはどうしたらいいの!?」

「え?」


 真紀が愛さんの元へ駆け寄る。



「どうするって……もう一回同じ薬飲めばいいんじゃないの?」




 ……あ、そっか(笑)。今は女の子なわけだから、同じ性転換薬をもう一回飲めば男に戻れるじゃん。なんで気がつかなかったんだろう……(笑)。


「満君に変なことしてないで、さっさと寝なさいよ~」

「は~い」


 ガチャッ

 愛さんは寝室へと戻って行った。元に戻れる方法がわかって、少し体が軽くなった気がした。


「もう安心だね」

「満君……ごめんね」

「え?」


 急に真紀が謝った。下を見てうつ向きながら。


「どうしたの? 急に……」

「調子に乗って性転換薬なんか飲ませて、満君にいっぱい苦労をかけちゃった。本当にごめん……」


 真紀……。


「なんだ、そんなことか。別にいいよ。おかげで僕は女の子の大変さを身をもって知ることができた。真紀はすごいね。その大変さを毎日抱えて生きてるんだから」


 僕は真紀の頭を撫でた。今の僕が真紀の頭を撫でても全然カッコよくないけど、なるべく真紀には責任を感じてほしくなかった。


「ありがとう、満君。女の子になっても優しいね」


 真紀に笑顔が戻った。女の子はやっぱり愛嬌だ。


「よし!」


 真紀は何かを決心したようだった。すると、とっさにビンの蓋を開け、性転換薬を一粒取り出して口に放り込んだ。


「え!? ちょっと真紀! 何やってるの!?」

「満君が女の子の大変さを知ってくれたんだもん。だから今度は私の番。私も男の子の大変さを学ぶから」

「真紀……」


 そこまでしてくれなくてもいいのに……真紀らしいなぁ。


「頑張ってね。僕もサポートするから」

「うん!」


 その日は明日の真紀が頑張れるようにと、手を繋ぎながら寝た。真紀の手は僕より少し大きく感じた。








 んんん……。もう朝か。僕の体はもう戻ってるはずだよね。とりあえず体を起こして……ん? この首筋のくすぐったい感触……何かが胸元に乗っかってる感じ……まさか!


 バッ

 僕は思い切り起き上がった。








「全然元に戻ってないじゃん!」


 なんで? なんで男に戻ってないの?


「んん~、満君おはよう……」


 真紀が起きた。真紀に聞いてみよう。あれ? 真紀?


「ん? あら? わぁ~! 髪短い! 体硬い! 声低い! 股間に変なのついてる~! 男の子の体だ~」


 真紀はすっかり性転換していた。ベッドに真紀の抜け落ちた緑色の髪が散乱している。真紀は自分の体をあちこち触りまくっている。


「ん~♪ あれ? 満君、女の子のまんまじゃん。なんで?」

「よくわからなくて……」


 一体なんで僕の方は元に戻ってないんだ? あれ? そういえば……あっ……




「性転換薬、飲むの忘れてた……」


 しまった。昨夜、真紀が急に性転換薬を飲み始めたことにすっかり気をとられて自分が飲むのを忘れていた。何やってるんだ僕は……。とにかく今すぐ飲もう! 僕はベッドの上部の棚に置いてあるビンに手を伸ばす。


 パシッ


「あぁ!」


 真紀が先に腕を伸ばしてビンを奪い取る。男になったことで腕が長くなっているのだ。


「真紀! それ返してよ!」

「元々私のだも~ん」


 真紀はビンを床に捨てる。ビンは部屋の奥まで転がり、壁にぶつかって止まる。


「早く飲まないと!」


 ガシッ

 ビンを拾いに行こうとした僕の腕を、真紀が掴む。痛い。力が強くなっている。


「ねぇ満君。私達、完全に性別逆転しちゃったわよね」

「ま、真紀?」


 なんか真紀が怖い。真紀の手を振りほどこうとするが、やはり男になった真紀の力が強くてできない。


「どうしよう。男の子になった途端、満君が前よりずっと可愛く見える。なんかムラムラしてきちゃった」

「え?」


 不適な笑みを浮かべる真紀。すっかり顔立ちも男っぽくなっている。男の時の僕なんかよりもずっとイケメンに。声だって少し裏返ってはいるが、全体的に低い。カッコいいな、真紀……///。なんかドキドキする。


 ……って! そんなことより!


「男の子って理性保つの難しいんだね。満君すごいよ」

「ま、真紀……落ち着いて、きゃっ……///」


 真紀が僕を押し倒し、覆い被さる。


「昨日裕介君ができなかったことの続き、私がしてあげようか♪」

「だ、ダメだって……///」


 真紀の手が僕の胸に近づいていく。またもやわしづかみにされる。


「ふふ♪ 私が……いや、僕が可愛がってあげる♪ 満子ちゃん♪」

「んやぁぁぁぁぁ~///」


 家中に僕の甘ったるい声が響き渡った。朝から僕は真紀と色々やってしまった。真紀と出会ってから毎日退屈しないが、少々刺激的な日々になってしまった気がする。


 でも、やっぱり人生の素晴らしさに性別は関係ないと思う。たとえ僕が男であっても女であっても、僕はいくらでも楽しむことができるんだろうな。真紀と一緒にいる時間を。


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