第5話「男女入れ替え物語 その1」
「植物図鑑と……自由研究の計画表と……消滅遺産図録と……」
未来へようこそ。ここはあなた達から見て約84年後の世界よ。そして私は未来を生きる少女、真紀。今自由研究で過去の時代をタイムマシンで巡ることになったから、その準備をしてるの。時代を飛び越えるのは初めてだから楽しみよ。
「ハンカチと……ティッシュと……それからえっと……」
私は自室の床に物を色々とぶちまけて、持っていく物を次々とリュックに詰める。明らかにいらない物までぶちまけちゃってどうしようかと思ってるわ。
「ん? これ……」
私は錠剤が詰められたビンを見つける。こんなものまで用意したのね、私。ていうか何だっけコレ……。ラベルには明るい字体で「セクシャルチェンジャー」と書かれてある。うーん……。
「あっ! 思い出した!」
そうだ。この間通販で買ったんだ。確か、この間の夏休み前のテストのことだ。直美と点数で勝負したんだ。そして負けた方が罰ゲームでアマゾン(アマゾンジャパン合同会社は84年後の未来でも健在中よ♪)でその時の人気商品を目隠しして適当に買うということをした。案の定私が負けた。それで買ったんだ。でもそれっきりだったなぁ。一回も使ってないわ。どんな薬かもわからないし……。
「……」
私は無言でセクシャルチェンジャーをリュックに入れる。なぜか知らないけど、この後使うような気がした。気のせいかな? いや、どちらにしろ使ってやるわ。私はリュックのチャックを閉めた。準備はOK。土曜日が楽しみだわ♪
聞いてないわよ。帰れなくなるなんて。
私、パパ、ママ、家族全員でタイムマシンに乗り、過去の時代を色々巡った。植物の写真を撮るという任務は達成できたものの、タイムマシンが時代を飛び越える時に通るワームホールっていうトンネルに乱れが生じた。タイムマシンは過去の時代に不時着した。しかし、タイムマシンは大爆発して故障。パパがなんとか直してみるって言ってたけど、私達はしばらく元の時代に帰ることができなくなった。絶体絶命だ。
そのピンチに駆けつけてくれた救世主が、偶然不時着した時代に暮らしている青葉満君という少年。彼は全人類が敬うべきだと思うくらいの優しい好青年だった。途方に暮れる私達が事情を話すと、この時代で生きていく手助けをしてくれるという。終いには自分の家にまで泊めてくれる。ヤバい。
「ありがとう、満君~」
「別にいいよ」
満君と一緒に過ごす日々はとても楽しかった。私の知らない世界が次々と眼下に現れた。色々なことがあったなぁ……。一緒にお弁当食べたり、勉強会したり、文化祭で演劇したり、海行ったり、体育大会楽しんだり、遊園地行ったり、キ、キスしたり……とか……///。気がつけば私は満君のことが好きになり、満君も私のことを好きになってくれた。今、私達は幸せだ。いつまでもこうやって生きていけたらなぁと思う。満君と一緒に。
ごめん。前置きがすっごく長くなったわね。とにかく、これは私が満君の時代にやって来てから約一ヶ月経った頃のことだ。10月に入ったというのに猛暑日はまだ続いており、夏はまだ秋の居場所を奪っていた。おかげで私達の制服はまだ夏服だ。
「暑いわね~」
「だね~」
今は体育の授業の休憩時間。私と満君は体育館の端に座って休憩している。いつもは体育の授業は男女別だけど、今は違う。この学校は毎年10月に体力測定を行うらしい。学級の始まりにやる体力測定とはまた別だ。それを体育の授業の一コマを使って行う。この時だけ男女合同で行うらしい。理由はわからない。
「あぁ……体操服が汗でベタベタする……」
「そうね」
そもそも、男女別にしてやるイベントの存在意義がわからない。いや、存在自体は否定しないけど、男女別という要素がいらない。別に合同でいいじゃない。男と女で体力が違う? お互いが気にする? 知らないわよ。あ~、男女差別反対。
「なんか不機嫌そうだね。何かあったの?」
「別に」
確かに女は男と比べて体力無いけど、力のある女だっているはずよ! この間テレビで女のプロレス選手見たし。女は体力無いなんて誰が決めたのよ~!
「そろそろ休憩時間終わりだよ。真紀」
「うん」
体育の授業も男と別々だから満君に全然会えないじゃない。私はずっと満君といたいのに。
「お~い、みんな休憩終わり~」
「ほら、行こう」
「えぇ」
とはいえ、私も体力の無い女だから何考えようが無駄なんだけど。
「……」
その後、私は流れ作業のように体力測定を済ませた。だからと言って簡単だったわけじゃないけど。あ~あ、体力の無い女なんて辛いわ~。今夜満君に愚痴を聞いてもらおう。あ、でも満君は女じゃないからわからないか。
「でね~、もう散々だったわ。体力測定」
私と満君は晩ご飯とお風呂を終え、歯も磨いて部屋にこもる。眠くなるまでひたすらお喋りをする。いつもの日課だ。私はベッドに横になり、満君は椅子に腰掛けている。
「真紀もなんだ。実は僕も……」
「え? 満君も?」
満君が言うには、彼も今日の体力測定がうまくいかなかったらしい。恐らく男子の中で最下位だという。そういえば満君も男の割には運動が苦手だったわね。
「裕介君に色々言われたよ。そんな弱々しい男のままじゃ彼女を守れないって……」
彼女って、私のことかしら?(笑)
「なんか嫌だな~」
「何が?」
「ほら、なんか男って強くないといけないってイメージあるじゃん。僕、男のくせに弱いからさ……」
満君も似たようなことを考えていたことに驚く。一緒に過ごしているうちにすっかりそっくりになっちゃったわね、私達。
「そうかな~? 私よりかは満君体力あるじゃん。私は男っていいと思うな~」
「そうかな? 逆に僕は女っていいと思うよ。体力無くてもそこがチャームポイントになったりしてさ」
満君……女を一体何だと思ってるわけ? ちょっと夢見すぎなんじゃないかな~?
「女だって色々大変よ。経験してみればわかるわ」
「そう……。でも経験って言っても無理なんじゃ……」
「無理じゃないわ!」
ついに来たわ。やっとアレを試す時が。今試しましょう! せっかく買ったのに一度も使わないなんてもったいないもん! 私は自分のリュックの中を漁る。この中に……あった!
「テッテレ~♪ セクシャルチェンジャ~♪」
「セクシャルチェンジャー? 何それ?」
えっと……説明欄説明欄……。ふむふむ。よし、性転換できるわね。
「これは生物を性転換させてしまう薬で~す!」
「性転換だって?」
「うん。生き物の染色体にぬたゆぶぉjujjvmev+#+=@^■〒△●★♪して、男は女に、女は男にしちゃうのよ」
「はい?」
途中よくわからない未来語混じっちゃったけど、要するにこれを飲めば簡単に性転換できるってわけ。未来の科学力の爆発よ。
「だから、性転換薬よ」
「はぁ……」
「早速試してみましょうよ! はい」
私はビンの蓋を開け、一粒取り出して満君に差し出す。自分で試すのはちょっと怖いもの。
「え? 僕が飲むの?」
「そうよ。女になりたいんでしょ?」
「いや、別になりたいとは言ってないけど……」
「いいから飲みなさい!」
私は満君の口に無理やり錠剤を押し込んだ。思い切り押し込んだので、満君は後ろに倒れる。この際、満君には勉強してもらいましょう。女がどれだけ大変な生き物かを。
「むぐっ! あ、飲んじゃった……」
満君の頭から冷や汗が流れる。満君はすぐさま自分の体に変化がないか確認する。
……特に何も変化がなかった。何も起きない。満君は自分の体をへたへたと触りまくったけど、やっぱりどこにも変化はない。
「あれ?」
「何も起きないね……」
おっかしいわね。中身は間違ってないはずよ? 今ここで初めて封を開けたんだから。てことは……。
「まさか、詐欺商品!?」
性転換薬とか書いておきながら、何の変哲もないただの薬品とか? アマゾンでよくある詐欺商品か。うわ~、お金無駄になった。
「それ、ネットで買ったの?」
「うん。効果が出ないってことは、これ詐欺商品ね……」
「詐欺なんだ……」
「あぁ~、無駄な買い物した~」
これ結構高かったのに~。レビューとかしっかり見とけばよかった~。よくこんなもの人気ランキングに載ってたわね……。
「……寝ようか」
「うん」
今日は難しいことをいっぱい考えた。体力測定の疲れもある。おかげでだいぶ眠い。もう寝よう。
「おやすみ……」
「おやすみ」
私と満君はベッドの毛布に潜った。部屋の電気を消すとすぐに夢に誘われた。
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