第3話「白熱の体育大会 その2」
「青い……」
また場面は変わり、ここは海。水平線が遥か彼方へと続き、海水は照り輝く太陽の光を浴びて青々と輝いていた。砂浜は多くの海水浴客のビーチパラソルに溢れていた。行き交う人々、飛び交うビーチバレーのボール、並ぶ屋台、キラキラした波、絶好の海水浴日和だ。
「夏だぁ~!!!」
「海~!」
「マジレスすると今は秋~!」
それぞれプリティーな水着を着た綾葉、美咲、真紀は海目掛けて砂浜を全力疾走した。今日はいつもの5人に真紀を入れたメンバーで海水浴に来た。9月が終わる直前、もうそろそろ秋の芽生えが見られる季節に入るところではあるものの、猛暑は延々と続き、海水浴場はまだまだ繁栄していた。土日休みを利用して、満達は思い出作りにやって来たのだ。
「ちょ~っと待った~!!!」
走り始めた女子勢を大声で呼び止める裕介。三人は立ち止まって振り向く。
「何よ~裕介、せっかく泳ごうと思ったのに……」
「お前ら、何のためにここにきたかわかってんのか?」
裕介は五人を見渡しながら問う。
「海水浴~!」
「バーベキュー?」
「花火~!」
「作者の都合」
「思い出作り……」
それぞれ自分で思う本来の目的を信じてやって来た。だが……
「違う! そんなことのためにここに来たわけじゃねぇ!」
裕介は違うようだった。
「じゃあ何のためよ?」
綾葉か腕を組みながら問う。腕に胸が乗っかり、巨乳がより強調される。
裕介は持参した大きなバッグから短いロープを取り出し、五人に見せつける。
「今からここで二人三脚の練習をする!」
「えぇぇ~!?」
五人は驚きの声を上げる。
「なんでここまで来て練習なんてすんのよ!」
「せっかく海に来たのに……」
「練習なら来週やるでしょ~?」
「面倒だ」
続けて反感の声を上げる。
「二人三脚は俺達のメイン競技だ! 配点だって一番高い。せめてこれだけでもたくさん練習しとかねぇとダメだろ。学校での練習時間だって少ねぇんだぞ!」
「えぇぇ……」
せっかくの海水浴の日に練習のやる気など出るわけも無かった。一人を除いて。
「僕は別にいいけど……。ちょうどペアも揃ってるからね」
満は裕介の持っていた短いロープを受けとる。
「今年こそ勝ちたいんだよね、裕介君」
「満……」
「満君がやるなら私もやる」
満の姿に感銘を受け、真紀も名乗り出た。
「私、満君のペアだもん」
「真紀……」
「しょうがないわね。少しだけよ」
「さっさと練習終わらせて海で遊ぼう」
「だな」
それぞれやる気になってロープを手に取る。
「お前ら……わかってんじゃねぇか……」
裕介の瞳から流れる一筋の滴は果たして涙なのか、それとも汗なのか。
女子はそれぞれ水着の上に上着を羽織る。さすがに全身の肌を露出させた衣装で肩を組むことは恥ずかし過ぎる。各々ペア別に砂浜の上で練習を始めた。
「1,2,1,2……」
裕介と綾葉は肩を組み(裕介の手が綾葉の胸に触れない程度に)、足首をロープで縛り、掛け声を上げながら走る。
「あっ!」
「うおっ!?」
バタッ
綾葉がバランスを崩して転倒する。それに引っ張られた裕介も肘をつく。
「痛た……裕介、スピード合わせてよ」
「悪ぃ……」
「また失敗ね。こんなんで大丈夫かしら……」
綾葉が走る度に揺れる彼女の胸に見入ってしまい、走りがぎこちなくなってしまうとは口が裂けても言えない裕介だった。
「やっぱ掛け声から見直すべきか」
「はぁ? そこから?もっと他に変えるところないわけ?」
「んんん……」
お互いの息が合わず、頭を抱える二人。
「痛い!」
「悪ぃ、早すぎたか?」
「ううん。私が遅いのかも」
広樹と美咲のペアも苦戦していた。なんせかなりの身長差のある二人だ。肩も高低があり過ぎてしっかり組むことができない。
「どうしよう……」
「俺、美咲の進みやすい歩幅に合わせるよ」
「え? いいの?」
「あぁ、歩幅を事前に決めておいたほうが進みやすいからな。あと姿勢だ。上半身を前に傾けながら進むと早くなる」
「すごい、広樹君。詳しいんだね」
「ま、まぁな……///」
珍しく照れる広樹。運動の苦手な美咲のために密かに研究をしていたのだ。
「じゃあ、もう一回だ」
「うん」
「1,2,1,2……」
こちらは満と真紀のペア。案外二人の調子は順調のようだ。いつの間にか3時間以上も練習を続けていた。他の四人は一時休憩して海に入っていた中、二人はひたすら肩を組んで砂浜を走っていた。気がつけば辺りは夕日に照らされてオレンジ色に輝き、すっかり夕方となっていた。
「ここの砂浜は学校のグラウンドと砂の質が似てて練習になるね」
「うん! あと、私達結構いけるじゃない!」
「息もピッタリだね。これはアンカーとして頑張らなくちゃね」
そう。満と真紀のペアはアンカーに選ばれた。裕介曰く、クラス内で最も息の合うカップルだからだという。ちなみに麻衣子の走順もアンカーだ。最終レースでタイマンを張ることになるかもしれない。
「そろそろ終わりにしようか」
「そうね」
満はしゃがんで足首を縛ったロープをほどく。
「結局海で泳げなかったね……。ん? 真紀?」
真紀は黙ったままオレンジ色の海を眺めていた。綺麗だった。海も、真紀も。
「アンカーかぁ~。私本番に弱いタイプなのよね……」
「そっか……」
真紀が口を開いた。どうやら不安がっていたようだ。楽しもうと言っていたが、あの自信がどこかに消えてしまっていた。いつものように励まそうとする満だが、うまい言葉が思い浮かばず、何も言えないでいた。
「とにかく、頑張ろう」
「……うん」
今言えるのはこれだけだった。
カモメが鳴きながら、波の流れに沿って水平線の向こうへ羽ばたいていった。満は心の中で、真紀に言ってあげられる言葉を探していた。
* * * * * * *
「誰か~! メガネかけた人~! いませんか~? あ、青葉君、来て!」
「え? うん……」
またまた場面は変わり、ついに体育大会本番。団員テントで隣に座っていた満君が借り物競走の走者に選ばれた女の子に腕を掴まれ、連れ去られていった。
「キャ~♪ 満カッコいい! 走って走って~💕」
もはや完全にネタキャラと化した咲有里さん。観客席の中央で一眼レフのシャッターを切りまくる。隣にいる私のパパとママが若干引いてる。
「お母さん……」
「ほら青葉君、早く行こっ!」
なんか……二人の距離近くない? そんなにベタベタくっついて、明らかに自分の胸を満君の腕にあててるわよね。あ、一位でゴールした。やったわ!
……って、まだくっついてるじゃない。くっつき過ぎ! もう少し離れなさいよ。
……私、何焦ってるんだろう?
全ての走者が終わり、いよいよ借り物競走の総合順位の結果発表だ。
「一位は……赤団!」
「イェェェ~イ!!!」
やったわ! 赤団が一位よ! 満君の貢献のおかげかもね。私は校舎の3階のベランダに立て掛けられた団別の得点表を見上げた。
赤団 248 白団 256
うーん……わずかな差だけど白団には負けてる。でも勝負はまだ終わらない。次はクラス対抗200メートル走、かなり得点稼ぎのできる競技だ。
ピンポンパンポ~ン
所々のテントに設置されているスピーカーからチャイムが鳴った。何かのお知らせこしら?
「ここでお知らせ致します。次の競技として予定しておりました『クラス対抗200メートル走』についてですが、時間の都合により中止とさせていただきます」
「えぇぇ~!?」
至るところから反感の声が上がる。まぁ、200メートル走もかなり盛り上がるメイン競技みたいなものだっから仕方ないわね。でも、時間の都合というのも仕方ない。
「それでは午後1時10分まで昼休みとします。各自弁当を食べるなどして休息をとってください。昼休みが終わりましたら午後の部を開催致します。最初の競技は二年生による『二人三脚』です。参加される選手の皆さんは午後1時15分までに入場門前に集合してください」
昼休みは満君と咲有里さんが二人で作った手作り弁当をお腹いっぱい食べた。超美味しかった。これで午後の部もしっかり頑張れそうね。と言っても、私が出るのはもう二人三脚だけだけどね。練習の時みたいにうまくできるかしら?
「お待たせしました。これより、二年生による『二人三脚』です。選手の皆さんは入場の準備をお願いします」
入場門の前に走る順番で並ぶ私達。右の列には白団のみんな。そして、左隣には満君。私達二人は赤団の最後尾に並ぶ。ちなみに白団の列の最後尾には、あの麻衣子ちゃんのペアがいる。
「あなたは……例の転校生ね。この競技で決着を着けましょうか♪」
「の、望むところよ!」
顔を近づけ、にらみ合って火花を散らす私達。その間、満君は他人のふりをしていたらしい。なんでよ。
ザッザッザッ
入場門をくぐり抜け、位置につく選手達。
「満~! 頑張って~!」
「真紀~! 絶対に勝つのよ~!」
観客席の中央で我が子を必死に応援する二人の母親。ママ……恥ずかしいからもっと声を小さくしてよ……。満君も隣で軽く赤面している。
「お前ら~! 行くぞ~!」
「オォォォォォ~!!!」
裕介君が先頭に立って高く拳を振り上げる。それに応えてクラスのみんなが一斉に叫ぶ。
「絶対に負けないわよ~!」
「オォォォォォ~!」
隣の白団も同じことをやっている。麻衣子ちゃんを中心とし、クラスのみんなが一つになっている。
「それでは各団、位置について……」
互いの団の最初のペアがラインに並ぶ。
「よーい、ドン!」
パーンッ!
ピストルの音が鳴り響く。そして一斉にスタートする走者達。白熱とした戦いが、今始まった。
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