第2話「白熱の体育大会 その1」
「楽しかったわね~♪ 文化祭」
「うん。でも、本当にドラえもんやるとは思わなかったよ……」
僕は真紀と夕焼けに染まった道を歩く。真紀とこの色を眺めながら一緒に歩くのは、果たして何度目だろうか。もう数え切れない程の時間を共にしたなぁ。それでもまだ出会って1ヶ月も経っていないということが信じられない。
「次は体育大会ね! すっごく楽しみ♪」
「体育大会かぁ……心配だなぁ……」
僕は一つため息をする。真紀は横から僕の困った顔を覗きこむ。
「なんでよ~?」
「僕、運動苦手なんだ……」
今まで料理や勉強など、真紀に優位性を自慢できるようなものをいくつか見せられたが、運動だけはどれだけ努力してもどうにもならない。これだけは裕介君や広樹君には敵わないや。もしかしたら綾葉ちゃんや美咲ちゃんよりもダメかもしれない。
「そうなんだ。満君何でもできる完璧超人かと思ったんだけどな~」
僕のこと、そんな風に思っていたのか……。ちょっと過大評価し過ぎじゃないかな。完璧な人間なんてこの世にはいないよ。
「じゃあ今度は私が満君に力を貸してあげるとしましょう!」
「え? 真紀、運動得意なの?」
「いや? 全然」
「えぇ……」
そんな真顔で答えないでよ……。すごく期待しちゃったじゃないか。それにしても、真紀も苦手な方なんだね。ちょっと意外かも。アグレッシブな性格だから得意なのかと思ったよ。いや、これは偏見か。
「でもね、気合いだけなら負けないわ! どんなことでも気合いさえあれば乗り切れるわよ!」
精神論か。でも真紀らしいや。こういうところ、僕も見習うべきなのかな。
「とにかく楽しみましょ♪」
「そうだね。僕も前向きに捉えてみるよ」
やるからには楽しまなくちゃ!
「んで、肝心の体育大会の競技についてだ」
場面は変わって次の日の学校。僕らは体育大会の詳しい説明を受けている。裕介君がクラス代表で黒板の前で説明をしてくれている。
「俺達二年生がやるのはクラス対抗200メートル走、借り物競走、そして二人三脚だ。200メートル走と借り物競走はこのクラスからそれぞれ20人ずつ、二人三脚は全員で参加する」
黒板にチョークで競技名と細かい説明を書いていく裕介君。一文字一文字が実に力強い。
「いいか!? やるからには勝ちに行くぞ! 今度こそ優勝旗を俺達の手で掴み取るんだ~!!!」
「オォォォォォ~!!!」
裕介君の掛け声と共に一斉にクラスのみんなが歓声を上げた。非常にやる気のようだ。裕介君も自分からクラスの代表になりにいったんだもんね。
「やる気だな~。まぁ、とにかく頑張れ」
石井先生は半目で椅子に足を組んで座っている。今にも眠りこけそうだ。やる気が無い。あなた担任ですよね……。
ガラッ
唐突に教室の扉が開き、誰かが顔を覗かせた。誰だ?
「随分と賑やかなようだけど、残念ながら今年も私達白団が優勝させてもらうわよ♪」
やって来たのは、隣のクラスの子だ。女の子みたいだけど……名前何だっけ……。
「おい鶴宮……作戦会議の途中に何抜け出してんだ」
隣のクラスの担任の先生が彼女の後ろから出てきた。そうだ。
「だ、だって……生意気な歓声が聞こえてきたから……」
「向こうもこっちに勝つのに必死なんだよ。ほら、行くぞ」
隣のクラスの担任の先生は麻衣子ちゃんの制服の襟を掴んだ。
「あ、石井先生。私達は今年も全力で勝ちに行きますので! 覚悟しておいてくださいね!」
「お~、オッケ~オッケ~」
石井先生……。
「それでは、本番で」
隣のクラスの担任の先生は麻衣子ちゃんを引っ張って教室へ戻って行った。
「とまぁ、昨年俺の団はあいつらに敗北してしまった。だから今年こそ優勝を掴み取るんだ!」
「オォォォォォ~!!!」
再びクラス中に歓声が響き渡る。
「早速だが二人三脚のペアを決めるぞ。ここで一つ朗報だ」
朗報? 何だろう? クラスのみんなは裕介君に向けて顔を近づける。
「今年から二人三脚は男女ペアでやることになった!!!」
「オォォォォォ~!!!」
男女ペアかぁ……面白そうだ。でも、僕は誰と……。
「よし、じゃあ自由に決めてくれ」
ガラガラガラガラ
クラスのみんなは席を立ち、ペアを組みたい人の元へ一斉に散らばった。
* * * * * * *
「〇〇〇ちゃん、俺と組もうぜ」
「うん、いいよ」
「〇〇〇さん!僕と組んでくれませんか?」
「いいわよ~」
「〇〇〇、おお、俺とい、一緒に……」
「気持ち悪! 無理!」
次々と順調にペアが決まっていく。ほとんど男子から女子を指名していく形となっている。男女で協力して行う競技ならではの楽しみだ。
「綾葉~! 俺と組んでくれ!」
裕介が綾葉に声をかける。しかし、綾葉は汚物を見るような目で睨み、少し離れる。
「えぇ……嫌よ。変態だもん」
「何でだよ! 変態関係無ぇだろ!?」
「あるわよ! どうせ肩組んだ時に私の胸触ろうと企んでんでしょ?」
「げっ、バレた……」
バチンッ
教室に綾葉の平手打ちの音がこだまする。裕介は赤く腫れた頬を押さえながら床に倒れる。
「やっぱり! このド変態!」
「冗談……だって……触らないから……」
「ホントに?」
腕を組ながらなおも裕介を睨み付ける綾葉。
「わかった、クレープも奢るから……俺と組んでくれ!」
裕介は立ち上がって綾葉に手を伸ばす。
「はぁ……わかったわよ」
綾葉はため息をしながら裕介の手に自分の手を重ねて取った。
「オォォォォォ~!!!」
クラスの野次馬達は近い未来に結ばれる一つのカップルをはしゃぎながら眺めていた。
「綾葉いいなぁ……」
その光景を指をくわえながら眺める美咲。まだペアを組めないでいた。
「美咲、まだペアいないのか?」
一人孤立した美咲に気がつき、広樹が駆け寄る。
「うん、でも仕方ないよね。私運動苦手だし……。みんなの足を引っ張っちゃいそう……」
「なら、俺が支えてやるよ」
広樹は美咲に手を伸ばす。
「広樹君……」
「俺と組もうぜ」
「ホントに? ありがとう!」
美咲は喜んで広樹の手を取る。
「オォォォォォ~!!!」
「お前らうるせぇ」
野次馬達は教室の端にいた二人を見逃さなかった。これまた近い未来に結ばれる一つのカップルを祝福した。
クラスの3分の2以上程ペアが決まったが、まだ十数名は決まらないままでいた。その内の一人が真紀だった。
「どうしよう……」
真紀もまた運動神経が苦手なことがブレーキとなり、誰かとペアを組むことを恐れていた。
「この際自分から誘いに行こうかな……」
「あ、真紀!」
誘いを待つのを半ば諦めかけたその時、真紀に声をかける男がいた。そう、真紀のペアは実はもう決まっていたも同然だった。真紀のペアはこの男以外あり得ないからだ。
「満君!」
「えっと……もうペアは決めた?」
「ううん。まだだけど……」
デートの待ち合わせの「待った?」「ううん。今来たところだよ」のやり取りのような雰囲気を醸し出す二人。お分かりいただけるだろうか。
「よかった! えっと、じゃあ僕と組みませんか?」
真紀に手を伸ばす満。腕が小刻みに震えて何だかぎこちない。
「なんで丁寧語になってるのよ」
「なんか恥ずかしくなっちゃって……///」
可愛い。真紀は純粋に思った。
「何よ今さら……まぁいいわ。よろしくね!」
真紀は満の手を取る。
「オォォォォォ~!!!」
案の定野次馬達の歓声が待っていた。満と真紀は揃って赤面する。
「た、確かに恥ずかしいわね……///」
「うん……///」
いつまでも鳴り止まない鼓動の止め方を二人は知らなかった。
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