第18話「お母さんの思い出 その4」



「それであの人とお付き合いさせてもらうことになったの」

「う~ん♪ いいお話ですね! 私もそんな出会いがしたいです♪」

「あらあら、真紀ちゃんのお相手はもう隣にいるじゃない」

「そうでしたね、あははっ♪」


 真紀とお母さんは盛り上がっている。確かに聞いてていいお話だった。


 だけど……


「なんで今その話を……」

「満君、悲しんでる人を元気付けるためにはね、まずはお話を聞くのよ」

「え?」


 真紀が教えを説くように僕に語りかける。


「人は悲しい気持ちを抱えた時にね、それを誰かに共感してほしくなるの。具体的な行動をしてほしいんじゃなくて、『辛かったよね』とか『その気持ちわかるよ』とか、そういう言葉掛けを求めてるわけね」

「あぁ……」


 不思議と説得力がある。そういえば、綾葉ちゃんも似たようなことを言っていた気がする。つまり、お母さんの場合はお父さんがいなくなった悲しみを思い出に包み込み、誰かに話すことで軽減させているというわけか。


「特に女の子は悲しい時、共感を一層求めてしまうのよ」

「そうなんだ……」


 そうか。真紀が自然とお母さんの話に入っていくことができたのは、共感を求めていると瞬時に察知したからなんだ。お母さんだって一人の女性なんだ。流石女性同士、どこか心が通じ合っているところがある。女性ってすごいなぁ……。


「咲有里さん、少しは気が楽になりましたか?」

「えぇ……」


 お母さんはすっかりいつもの笑顔に戻った。


「また辛いことを思い出したら、いつでもお話を聞きます」

「ありがとう、真紀ちゃん」

「お母さん、僕も聞くよ。お母さんやお父さんのこと、もっと知りたいから」

「満……」

「お父さんはいないけど……僕達がいるよ」

「満、ありがとう! 二人共大好きよ~💕」


 お母さんは僕と真紀を思い切り抱き寄せる。お母さんのスキンシップには毎度うんざりさせられるけど、今だけはすごく心地いい。いつまでもこうしていたい気分になった。お母さんが元気になってくれてよかった。本当によかった。








「満君、私……やったの?」

「うん。やったんだよ」


 僕と真紀はベッドで布団を被りながら向かい合って寝ている。


「私、人を助けた……」

「あぁ、それだけじゃない。未来の技術に頼らずに、真紀自身の力で助けたんだ。真紀の女の子ならではの知識で。真紀が女の子じゃなかったらできなかったことだよ」

「やっとできた……もう助けてもらってばかりじゃないんだ。やった……」


 真紀の素敵な笑顔。それを見るだけでよく眠れそうだ。真紀は今日、僕のお母さんの悩みを解決したんだ。話を聞くという形で。あの時の真紀はいつもと違い、とても凛々しくてカッコよかった。


「あぁ、僕だったらできなかったよ」

「確かに、満君意外と女心理解してないもんね」

「うぅっ……」


 痛いところを疲れる。しかし、天気予報のように目まぐるしく変わる女心を理解するなんて、何も見ずに明日の天気を言い当てるくらい難しいと思う。とにかく複雑過ぎる。


「一度女心を勉強した方がいいわね。明日、性転換薬飲もうか♪」

「い・や・だ!」

「なんでよ~? 満君の石のように硬い男心を柔らかくしなくちゃ! 女心を理解するためよ?」

「そう言ってどうせ体触ったり、着せ替え人形にして遊びたいだけでしょ? 絶対にいやだ!」

「えぇ~お願いよぉ~。今回私頑張ったんだからそのご褒美~」

「い・や・だ~!!!」


 どれだけ人を助けてカッコよく見えても、中を開けてみればいつもの真紀。でも、それでいい。真紀が真紀でいてくれるなら、僕はいつでも僕でいられる。たとえ死んだ後でも。


 言い合いが終わって眠気も溜まり、僕は寝落ちする前に真紀に聞いてみる。


「真紀……」

「ん?」

「真紀は……もし僕が死んじゃったらさ、その時は悲しんでくれる?」

「もう……怖いこと言わないでよ」

「ごめん……」


 我ながら愚問だと思った。返ってくる答えなんてわかっていたのだから。




「思い切り泣き叫んでやるわよ。天国まで届くくらいね」

「真紀……」

「あなたのいない世界なんて……想像もしたくないから……」

「ありがとう……」

「それじゃあ、おやすみ」

「うん、おやすみ」


 自分のことをこれでもかと愛してくれる人と出会えたことに、大いに感謝した。僕は真紀とおやすみなさいの口付けをし、二人揃って幸せな眠りについた。








 ネクストタイム・ラブヒ~ント!『カップル』


「タイム・ラブ番外編、来週も見てね!」

「真紀……うるさい……」

「あ、ごめん(笑)」


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