第4話 ー「喪服女、討伐」ー

気がつくと、夢の中にいた。

夢だと分かるのはなんとなくそう思ったからだ。

そしてそれは間違いでは無いと、自分で分かっている。

とりあえず。

目の前の少女に意識を向ける。

知らない女の子だ。

しかし、何故か頭の中に「覚えている」という感じがする。

「君は…」

と、声を掛けようとした時、景色が歪んだ。

僕は起きつつあるようだ。

もう少しだけ待って!

しかし周りは白く塗り潰されてゆく。

「またね」

と、聞こえた気がした。


目を開ける。

なにか重みが。

「ふふ、起きた?」

「ご主人様、食事の前に朝の運動でもしますか?」

ベッドの上には二人の女の子達が。

つまりは僕の上に寄りかかって。

何か柔らかいものが布団越しに伝わってくる。

何かまずい。

それと。

「うおい!重い、重い!お前ら、少しどいてよ!」

「まあまあ、私達重いってよ、どうする、ヒルデ?」

「レイア。ご主人様の命令は絶対です。後でお仕置きを一緒に受けましょう」

「ヒルデ、何顔を赤くしてるのよ。はいはい、退けば良いんでしょ、どけば」

レイアは、悶えているヒルデをつかみ、ベッドの上から退く。

僕は先程の感触を思い出し、少し照れて。

そして、欠伸を噛み殺しながらキッチンへとむかった。


食べ終わって。

「今日も美味しかったよ、ヒルデ」

「ありがとうございます、ご主人様。ペットとして当然の事をしただけですわ」

「また、ペットペットって。貴方ね〜」

「レイア、つっかかるなよ」

「もぉ!」

などと、たわい無い会話が続き、ヒルデが少し用事があるので、と出ていった。


その時、丁度入れ替わる様に、背の高い美女が、やって来た。

「あら、アースじゃないの。どうしたの。もしかしてアレなの?」

「ボクが来た事で察してよ。そうだよ、アレだよ」

「もう、面倒くさいわね、ま、しょうがない。行くわよ、健二」

「へいへい」

アースは、両手を僕達それぞれに向けて、

「二人とも、ボクの手を握って」

「おう」

「分かったわ」

僕達はアースの手を握ると、

「じゃあ、飛ぶよ」

アースが呟いてた途端に、景色が一瞬で変わった。


「ここは?って聞くのも無しかな。又ここに来る、なんて事などないからな」

「はいはい、感傷に浸ってないで周りの状況を見てよ」

「まあ、そうだな」

ここはどこかの都市の様だ。ビルや家が建ち並んでいる、普通の街だ。

辺りにいる人々が倒れているのをのぞけば。

「今回は、人の精気を吸い取る奴の様です。索敵は、」

「はいはい!私がやりまーす!」

「ロメロ、先に来てたのね。で、敵は?」

「少し先の道を横断中で〜す。行く先々で精気を吸い取りつつ移動している様ですね〜。追いますかぁ?もちろん追いますよねぇ?」

「もちろん追うわよ。健二、行くよ」

「ま、行くしかないしな」


ロメロの指定した場所に行くとやはりというか人々が道なりに倒れていた。

『敵はその先を移動中で〜す。距離は少し先ですねぇ。直ぐに追いつきますよ〜』

「分かった。この先だな」

頭の中に直接聞こえているロメロの声に従って未だ見えていない敵を追う。

隣のレイアもロメロの声が聞こえていただろう。

「もう少しよ、健二」と、声を掛けてくれる。

そして、敵の姿が見えた。


それを最初見た時は、喪服を着た女性が、ただ歩いていただけだった。

それだけで。

周りの人々が、崩れ落ちていった。

それを見て逃げる人々も徐々に倒れていく。


「そこの喪服女、待ちなさいよ」

レイアが喪服の女性を呼び止める。

「?、何そこの女。私に何か用か?」

「何人様に迷惑かけてるのよ、直ぐに止めなさいよね」

「は?周りが勝手に倒れてるだけでしょ。私は悪くないわよ」

「悪人は、いつもそう言うのよね!」

レイアはそう言うと火球を放つ。

対する喪服女は、手をかざした。

それだけで目の前の火球は萎んで消えてしまった。

「くっ」

レイアは悔しさに顔を歪めた。

「それならっ。連続攻撃よ!」

火球を連続して放つレイア。

喪服女は次々と消してはいるが流石に追いつかないのか所々服が焼けていた。

今回の敵は簡単に討伐出来そうだ。


「選びなさい。この世から消えるか、家畜の様に生きるか」

レイアは叫んだ。

家畜は酷いんじゃないか?

と、最初の頃は思ったものの、最近は聞き飽きているので突っ込まない事にしている。

喪服女は、

「消えるのも家畜もいやよ。貴方達が消えなさい」

と、両手をこちらに向けてくる。

それだけで、生命が捻り出される感覚に陥る。

レイアが隣に居なければ、僕は既に搾り尽くされて死んでいた事だろう。

しかし。

「健二、いってきなさい」

レイアが、背中をバチンと叩く。

「分かったよ、レイア」

僕は喪服女に向かって走る。

「ふん、何も出来ない人間ふぜいが」

と、喪服女が両手に更に力を込めた、様に見えた。

それだけで僕の生命力が無くなってゆく。

だけど。

後ろでレイアが僕に力を与えてくれる。それでなんとか持ち堪えてる。それに。

そして、喪服女の目の前まで来ると、

「喰らえ!」

いつもの様に陳腐な言葉を発しながら。

僕の、両手で。レイアの炎で真っ赤に燃えている両手で女を掴む。

「!!!!!ーーーー」

声にならない声を上げて、喪服女が炎に包まれる。

抵抗しようとするが、僕はガシッと掴んで離さない。

全ては数瞬の出来事。

やがて、消炭の様に成り果てた元喪服女の残骸を抱きかかえて、

「これで良かったんだよな」

「ええ。犠牲を増やさない為にね」

そうしていると、アースとロメロがやって来た。

「終わった〜?」

と、ロメロは確認して。アースは、

「やっぱり、倒れている人は、全員精気を奪われて、亡くなっている様です」

「どちらにしろ、いつもの様にいくわよ、健二」

「ああ、分かっている」

「いくわよ」

レイアが何かを呟いた。

そして。

視界が光に呑み込まれると、僕は意識を失った。


気がつくとベッドの中にいる。

まあ、いつもの事だ。

今朝に戻って来たのだ。

喪服女が人々を死なせる前の。

「ふふ、起きた?」

「ご主人様、食事の前に朝の運動でもしますか?」

これも今朝聞いた会話だった。

そういえばこの後。

と、思い出して。

やっぱり、何か柔らかい感触があるが、今日2度目だしな。

そっちは良いとして。

「重い!重いから早く退いてくれ!」

「まあまあ、私達重いってよ、どうする、ヒルデ?」

「レイア。ご主人様の命令は絶対です。後でお仕置きを一緒に受けましょう」

「ヒルデ、何顔を赤くしてるのよ」

二人の会話を横目にキッチンへと向かう。


朝ご飯を食べ終え、その後のヒルデとレイアとのたわいない会話をした後の。

ヒルデが出かた後。

「そういえば今回の喪服女、精気を奪うばかりだったけど、逆に分け与えたりする事が出来たらわたし達の貴重な戦力になったんじゃない?」

「だな。まあ味方になるかどうかは本人の意思次第だからどうしようも無いけどな」

「勿体ないわよねぇ」

「過ぎたことだ。忘れろよ」

「ふわぁーい」

レイアは欠伸を噛み殺す。

喪服女は世界から切り離されたので心配はないが、連続で敵が来る事は無いだろう。

「…寝直してくる」

「ご飯食べた後だから太るぞぉ」

レイアの言葉を聞き流しながらゴロンとベッドに横たわるのだった。

ーー>続く

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女の子との生活は平和か? 紅鶴蒼桜 @MariRube

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