閉会式、その後



 二人のチンピラは真理の通報で駆け付けた警官おまわりに引き渡した。俺は身分を証明し、今日はプライベートだからというと、向こうもそれ以上は何も聞かなかった。

 警官によれば何てことのない、ただの学校あらしの常習犯で、運動会で校内が手薄になると知っての犯行だったという。


責任者である教頭も後から駆けつけてきて、俺に頭を下げくれたが、何だかひどく気恥ずかしかった。

探偵なんかやっていて、他人ひとから感謝されるなんて、滅多にないからな。



 真理はその後開催された『借り物競争』に出場し、

『イケメン男子』というカードを引き当てて、細長いキュウリみたいな顔をした若い教師の手を引っ張り、運動があまり得意じゃないと愚痴ってた割には何故かひどく張り切って走り、2着に入って銀メダルをゲットして子供のようにはしゃいでいた。


さて、プログラムは予定通り進行し、閉会式も無事に終了し、マナの所属していた2年生チームは見事に優勝を勝ち得た。


 帰り際、彼女は終始ご機嫌だった。


 勿論一位になったこともあったんだろうが、久しぶりに『パパ、ママ』と呼べる二人とイベントに参加できたのが、もっとも大きな喜びだったらしい。


 自宅(渋谷の閑静な住宅街にあるマンション)の前まで、マリーの運転で送ってやった時、如何にも名残惜しそうに、


『パパ、ママ・・・今日はありがとうございました』と、丁寧に言い、深々と頭を下げてくれた。


 仕事だと割り切ってはいたものの、少しばかりセンチメンタルになったのも事実である。

 

 マナを降ろした後、俺とマリーは黙ったままだった。


 新宿のビルの前に着いたとき、


『ねぇ・・・・今から呑まない?』ときた。


『呑むったって、車はどうする。まさか警官おまわりが飲酒運転をするわけにもゆくまい』


『ちょっと待っててね』彼女は俺を降ろすと、どこかに走り去り、20分ほどして歩いて戻って来た。


『新宿署の駐車場じゃないだろうな?』俺が冗談めかして言うと、


『前にも言ったでしょ?私はそんな悪女わるじゃないわ。公私の別くらいわきまえてるわよ』


 何でもこの近くの有料駐車場に突っ込んできたという。


『今晩はお礼も兼ねて、私がおごるわ。いいでしょ?』


 警官おまわりで、しかも女に払わせるのはちとが、俺も何だか気分がいい。


 俺は黙って肘を曲げ、彼女に突き出した。


 マリーはそっと腕を絡める。

 

 その晩、俺たちは遅くまで呑み、そして・・・・・


 そしてどうなったか?


 あとはもう、狂気の沙汰よ。


(分かるだろ?)


 かくして俺の銀行口座は幾分平行線を保ちながらも、カラータイマーの点滅を免れた。


 それから、ついでに(と言っちゃなんだが)、


 マナから礼の手紙が届き、プレゼントとして、俺の似顔絵を描いた画用紙を同封してくれた。


 アニメみたいにデフォルメして、かなり二枚目にしてくれてるが、ま、悪い気はしない。


 俺はそいつを、ネグラのベッドの、ちょうど頭に当たるところに張り付けた。


(パパって響きも、悪くはないもんだな)


 時々俺はそう思っている。


                             終わり


*)この物語はフィクションです。登場人物、その他全ては作者の想像の産物であります。




 

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運動会狂騒曲 冷門 風之助  @yamato2673nippon

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