プログラムの2

 明後日あさっては運動会という日になって、俺は真理からマナに紹介さ

れた。


『初めまして』


 俺の顔を見るなり、彼女は小さな声でそういい、ぺこりと頭を下げた。


 素直そうな、なかなかいい娘に見える。


 俺は認可証ライセンスとバッジを見せて、彼女に身分を明かし、運動会を見学に行く旨を話した。


『有難うございます』彼女は嬉しそうにまた頭を下げると、少しもじもじしながら、


『それから、あの・・・・』


『運動会の時だけ「パパ」って呼んでもいいですか?』と聞いてくる。


 まあ、それが仕事だからな。普通だったら斜に構えて素っ気なく答えるところだが、ここは飛び切りの笑顔をサービスし、


『いいよ』と答える。


 マナも安心したんだろう。ほっとしたように笑った。


 改めて記すほどでもないが、俺も真理同様独身だ。


 結婚歴もない。当然だが子供もいない。


 考えてみれば、小学校の行事に家族が来てくれたことなど殆どなかった。

 ましてや運動会なんぞ、である。


 親父は現役の自衛官で転勤が多かったし、仕事人間だった。母親は看護師をしていたので、運動会なども勤務の合間にちょっと来て、直ぐに帰ってしまっていたから、勿論弁当も一緒に食べたことなどなかった。


 しかし俺は格別淋しいと思ったことはない。

 誓っていうが、強がりなんかじゃないぜ。

 それが普通だと思っていたからな。

 

 従って、他の級友が親と楽しそうに昼の弁当を食べているのを見ても、うらやましいと思ったこともなかった。


 だから、彼女の気持ちが正直言って分かった訳ではないが、それでもこれだけ歓ぶというのは、そこにやっぱり何かがあるんだろう。


 彼女からプログラムを見せられて、色々と話を聞く。


 昔とあまり変わらないが、マナが出場するのは二人三脚とフォークダンス、そして玉入れの三種目。


 そしてそれだけじゃなく、一応『保護者代理』である俺まで出場する種目があるのにはたまげた。


1『竹馬レース』

2『借り物競争』

 このいずれかに出なければならぬという。


 いい年(取り合えずまだ50にはなっていないが)のおっさんが『あれ貸してください。これ貸して下さい』

なんて出来やしない。

ということで、俺は『竹馬レース』を志願した。


 真理の方は『じゃ私、借り物競争にしとくわ』に落ち着いた。


 大体のところが決まると、


『ところで・・・・』と、今度は真理の方が困ったような顔を見せた。


『実はお弁当の事なんだけど・・・・どうしよう。私料理は大の苦手なのよ』ときた。


 苦笑しながら、


『心配するな、俺が何とかするよ』と答える。


 彼女ばかりじゃない。マナまで驚いたような表情で俺を見た。


『ええ?あなたお弁当なんか用意出来るの?』


 まさか出来合い持ってくるんじゃないだろうな。多分二人ともそう言いたいんだろう。


『昨今の一人暮らしの男性おとこを舐めたもんじゃないぜ。それに俺は陸自に10年だ。大抵のことは習っている』


 俺の答えに、まだ二人とも心配そうな表情をしている。


 まあ、見てるがいい。


 俺はとりあえずマナにどんなものを作ってほしいか、リクエストを聞いておいた。


 





 





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る