第28羽
「あっ、空ぁ!」
ツインテールを揺らして嬉しそうに走り寄って行く海来留。 姉としては妹の喜ぶ顔を見るのは嬉しいけれど、ちょっと海来留を取られたような、複雑な気分にもなる。
「こんにちは、みくるちゃん。 今日も元気だねっ」
「ちょっと待っててね」
海来留にそう言うと、空は公園のベンチに荷物を置いて、突然制服を脱ぎ………
「――ちょっ、お、お前はこんな所でなにしてんだよっ!」
「なにって、着替え持ってきたって言ったよね?」
「そういうことを言ってんじゃないっ!」
や、やっぱり海来留に悪影響だこいつは……!
「あ〜空すべすべ〜」
「そう?」
―――なっ?!
「こ、こら海来留、お前も離れ―――わぁ?! 早く着替えろお前はぁっ!!」
上半身裸でなにをじゃれ合ってんだあいつらは……っ!
「おねーちゃんうるさいね、これだからやんきーは」
………海来留、今晩はたっぷりピーマン食わせてやるからね………。
「ちょっと電話するから、先に遊んでてね」
「えー? はやくねっ」
「うん、すぐ終わるから」
やっと着替えたかこの露出狂めっ。 でも……あいつ顔に似合わず意外と引き締まった身体して―――な、なにを考えてんだあたしは……!
「じゃあ宜しくね、後で迎えに来るから」
「「はーい」」
声を合わせるんじゃないわよまったく、海来留はあたしの妹なんだからねっ! 空だって、あたしの………クラスメイト、なんだから………。
◆
「なるほど、ね。 事情はわかったわ」
「大丈夫、アゴ、ちょっと揺らしただけだから」
この時間だから部活で怪我でもした生徒かと思ったら、喧嘩か。
「まぁ、木村くんから殴りかかったし、一つ穏便にお願いしたいです」
この女子生徒でも取り合ったのかしらね、確かにモテそうだし。 私の時代にもいたな、こういう女の子。
「報告なしという訳にはいかないわ、事情はきちんと伝えるけどね」
「……そう、ですよね」
この女子生徒も責任を感じているのでしょうけれど、仕方ないわよね。
(これが灰垣くんなら問題になってもアリなんだけどね、この代役相手に噂になっても意味ないし)
でもこの男子、どうもこの女子に気がある感じしないのよね、なんかぼーっとしているし。 私がなんとなくその男子生徒を観察していると彼の携帯が鳴り、画面を見た直後に彼が呟いた言葉は、
「やべ、空からだ」
――― “空” ………ですって?
そんな名前、そう何人もいないわよね。 この子空くんの友達?
「電話、出ていいわよ」
「あ、うす」
彼が携帯に出ると、僅かに零れる通話の声が聴こえる。
『勇? 大丈夫なのか?』
「ああ、まぁ、その……」
――――この声、やっぱり………。
「空くん………」
「は?」
(今この保健医、 “空くん” て言ったよね? なんか明らかに表情緩んでるし。……そういえば、今日灰垣くんは保健室に来ていた、大して体調が悪い訳じゃないのに………)
『……勇、今どこだ?』
「………保健室」
『け、怪我させたのか?!』
「大丈夫、ちょっとアゴ揺らしただけだから」
(なんとも言葉のレパートリーが少ないヤツね)
『そういう問題じゃないだろ?』
「だってよ、わざとじゃねぇし」
「代わって」
「え、はい」
(は? なんで? 電話代わったよこの保健医。 しかもちょっと嬉しそうなんだけど)
「そ……灰垣くん」
『あっ、先生……』
「彼は君の友達?」
『はい、幼馴染の小柳勇という生徒です』
空くんの幼馴染………。
「そう。 まぁ、相手から手を出したみたいだし、怪我も特にはないから、今回は特別に私の範疇はんちゅうで収めておくわ」
『すいません、ご迷惑をおかけします』
「いいのよ、それじゃ」
『はい、ありがとうございます』
(………なにこの展開、完全に個人的な感情で動いてるじゃない)
「後は私が診ておくから、あなた達はもう帰っていいわよ」
「うす」
「……はい」
ふふ、これでまた空くんと会えるきっかけになるかな? なんでこう私と彼は縁があるのかしら。 そう、結局 “運命の人” とは引き寄せられるものなのね……。
―――私、こんなにポジティブだったっけ?
「先生は、灰垣くんとお知り合いなんですか?」
「………少し前、ここで休んでいったから覚えているだけよ」
「……そうですか」
(本当にそれだけ? そんな訳ないよね、それだけであんな顔しないって。 ……ふーん、また獲物が増えたかな? ま、多い程面白いけどね)
◆
「……ん……どこだ、ここ……」
あ、起きたみたいね。 クラスは空くんと同じ1-Cで、名前は確か………。
「ここは保健室よ」
「っ……あんたは……」
「私は養護教諭の澄田朋世。 ねぇ木村くん」
「は、はい」
「どこか、痛い?」
「いや、全然平気……です」
「そう、良かった。 相手の小柳くんも反省しているみたいだし、先に手を出した木村くんも悪いわよ」
「………はい」
「お互い問題にしても良い事は無いし、今回は私も目を瞑るから、君も忘れなさい」
「……はい」
「でも、ちゃんと反省するのよ」
「……はい――――先生………」
なんだ、思ったより素直な良い子じゃない。
それに私は空くんとお話し出来たし、ありがとうね、木村くん。
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