第29羽
そろそろ、かな。 早めに帰してやらないと空にも家の事があるだろうし。 あたしは大体の家事を済ませると、家を出て公園に向かった。
公園に着いてみると、いつの間にかあのつんつん頭と前にも来ていた海来留の友達の兄らしき中学生が増えている。
ちょうどひと段落したのか、バラバラに休憩しているみたいだな。 海来留は……ベンチで空と楽しそうに喋っている、が――――近い、もっと距離を取りなさい妹よ。
「海来留、もうちょっと離れて話しなさい」
「は? なにいってんのおねーちゃん」
なにってあんたね、あくまで悪影響だから言ってるんだよあたしは。
「うーん、僕風邪とか引いてないけど、何か移ると思ったんじゃない?」
「やんきーみたいなかみの色してるのにかほごなおねーちゃんだね、こまったもんだ」
………人参もたっぷり追加してあげるね海来留、晩御飯が楽しみだよ。
嫉妬でもしてると勘違いされるのも癪だし、雑談中のつんつん頭と中学生達の方へ行ってみると、
「そんで1発でそいつを沈めたんすか?」
「いや、流石っす勇さん」
「空に怒られたけどな、わざとじゃないのに」
なんの話? 喧嘩でもしたのかこいつ?
「あ、顔だけ(空の)かーちゃん」
「……変な呼び方すんなつんつん頭」
「「姐さん、お疲れ様です」」
「お前らもな……」
なんなんだこいつらは、こっちの方が海来留に悪影響かも知れないな。
「……なにジロジロ見てんだよ」
「いや、今日保健室の先生に会ったんだけど」
「だからなによ」
「胸、デカかった」
「は?」
あたしになんの関係があんだよ、セクハラ? 蹴っ飛ばしてやろうかなこのつんつん頭。
「空のかーちゃんもデカかったな、と」
「………それで?」
「ああ、別に。 ただ、やっぱりみくるのねーちゃんは顔だけ―――」
「死んでしまえお前はッ!!」
「おおっ! 姐さん鋭いミドル!」
「いや、勇さんきっちりガードしてるぞ!」
「お前、さっきの木村とかいうのよりセンスありそうだ」
「やかましいッ!」
こ、このつんつん頭、いつか頭刈ってやるからな……! てか木村って言った? ウチのクラスの木村かな? そんな訳ないか、接点ないだろうし。
「ほら、もう帰るよ海来留」
「えー、まだいいじゃん」
「言うこと聞かないともう約束しないからね、さっさと帰ってお風呂入りなさい」
その後、美味しい晩御飯が待ってるよ、海来留……。
「ゔ〜〜、あっ、じゃあ空と入る」
「はぁ?! あ、あんたバカじゃないの!」
「みくるちゃんとお風呂かぁ、楽しそうだね」
「お前もバカかッ!!」
はぁ、はぁ……こ、こいつらの相手すると疲れるわ………。
「バカっていったらいけないよね、空」
「うん、良くないね」
「べつにおねーちゃんがはいるわけじゃないのに……」
「――ッ!? と、とっとと来んかいこのマセガキ!」
もう限界、一刻も早くこの場から撤退しないとろくな事がない!
「いっ、いたいっておねーちゃん!」
「さようなら、今日はありがとうね! はい海来留もお礼言って!」
「またねー空、みんなー」
「バイバイ、みくるちゃん。 海弥も、また学校でね」
「強制連行、だな」
「あの子は将来小悪魔になりそうっすね」
「可愛いしな」
しばらくこの企画はやめよう、身体が持たないわ。 でも、海来留がうるさいからな……。
帰ったら余計なことを言わないように教育しよう、徹底的にね。
……海来留が変なこと言うから、思い出しちゃったじゃない、さっき見たあいつの―――ええいっ! 私にも再教育が必要だ!
忘れろ、忘れるんだ海弥……っ!
◆
はぁーーぁ、今日は惨敗。 こんなに上手くいかないなんてね、お風呂入っても全然さっぱりしないわ。
この私のお願いに代役送るなんて、いい度胸してるじゃない灰垣くんも。 ……あ、噂をすれば、肩透かしの彼からメッセージが来てる。
『直接行けなくてごめん。 無事で良かったけど、結局怖い思いさせちゃって……』
“行けなくて” ……か。 あの妹さんに負けたって事でしょ? 信じらんない。
「ロリコン……」
小学生より同級生でしょ、普通。 私だって、待ってたのに………
――ちょ、ちょっと待って、なに普通に落ち込んでんのよ私……!
忘れたの? 恋愛は本気になったら負けなのよ。 あくまで優位に立って余裕を持たないと。 いつもの調子であざとく、好意をチラつかせて反応を楽しむぐらいがちょうどいいんだから。
灰垣くんが私に興味が無いって言っても、そこまで挑発的にした訳でもないし、勝負はまだこれから。
よし、仕掛けてみるか。
『ううん、用事があるの知ってたのにゴメンね。 お友達にも迷惑かけちゃって、でも……ちょっと悲しかったよ、待ってた人と違ったから』
こんなもんかな?
さぁどんな返事が来るか、こっちはいくらでも引き出し持ってるんだから。 ウブそうな灰垣くんなんて簡単に堕とせる恋の弓矢、その
―――――――――――――――
―――――――――――
―――――――
―――
………今、何時?
ベッドに入ったまま側に置いた携帯に手を伸ばし見てみると……22時か。
てことは、あれから2時間ぐらい経ったな。 じゃあ、なんで………
――――なんで返事来ないのっ!?
あれ返事いらないメッセージじゃなかったよね?!
ちょっとこれ無視するのは酷くない?! そんなタイプじゃないよね灰垣くんって!
……だって、 “既読” になってるし………。
これは興味が無いっていうかもう “無神経” よね!
……でも、そうだ。 あの第1回謝罪会見もそうだけど、灰垣くんってあんまり携帯に依存するタイプじゃなさそう。
あの細目に言われてバイブにすれば良いのに電源切ってたし。 それに、私達と一緒に居る時は切ったまま忘れてたもんね。
……そうよ、忘れてるだけ。
きっと明日学校で会う前には、『今度はきっと迎えに行くから、なにかあったら言ってね』なんてメッセージが来てる筈だって。
よし、明日に備えてもう寝よう。
大体これじゃ私が待ち焦がれてるみたいだし、気分悪いわ。
寧ろ明日が楽しみよ。 せいぜい頭ひねって返事作るのねー。
………そっか、どんな返事したらいいかずっと悩んでるのかも? ふふふ、私はもう寝ちゃうから返事出来ないけどね。 じゃお先に、おやすみなさい。
………………………………
……………………
……………
……
喉、乾いたな。
……………………
……………
……
……来てないか。
――――眠れない………。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます