第20羽
「うんっ、おいしい」
「ホント……おいしい」
パンケーキって流行ってるみたいだけど、こういうオシャレなお店で初めて食べた。 とても美味しいです、景色も良いしぃ。
食べてる空くんも愛らしい……。 こんな幸せな時間がずっと続けば………
――――私は廃人になるかも知れない……。
そうだ、考えてみれば空くんの携帯の中には今、私の写メがあるんだよね。 無防備なところを撮られたから、変な顔してないかな……あんまり覚えてないよぉ。
でもでも、私の携帯にもさっき撮らせてもらった空くんの写メがあるの……。 うふふ、ついさっきから見ちゃうんだよねっ。
タイトルは『デザートを食べる
はっきり言ってこの写メ――――このままポスターになる出来っ!
ああもう可愛いっ……! やだもう空くんたら、ほっぺに生クリーム付いてるよっ。
「――あ……」
……ん? どうしたの、空くん?
「……ご、ごめん真尋ちゃん、ぼ、僕ちょっと鏡見てくるね……っ!」
な……何かしたのかな? 私………。
―――んん?これ ………なに?
私の人差し指に、 “生クリーム” が……?
ま、ま・さ・か………
―――――取った?
うそ……でしょ………?
―――わわ、私、空くんのほっぺに付いた生クリーム取っちゃったよぉ!!
なななななにやってんのっ?!
だ、だから空くん慌ててトイレに行っちゃったんだ………。
ど、どうしよう、こんなの母親かラブラブカップルしかしないって! 私はどっちでもないでしょう!?
どうしようって言えば………生クリーム《コレ》、どうしよう。
な、ナプキンで拭く? そ、そうだよね、それが普通かな? うん。
“もったいない”
―――誰っ?!
げ、幻聴……? 人差し指が、震えてる…………今、私の心の中でかつてない葛藤が巻き起こっている……っ!
天使と悪魔の “生クリーム大戦争” がッ!
お願い、負けないで
時間はそんなにない、空くんが帰って来ちゃう。 か、帰って来て欲しいよ? 一緒に居たいもん。
だって、好きだから………そう、私は空くんが好き。 そっか、好きなら………
――――――――いっか?
―――――っか?
―――か?
―?
「ごめん真尋ちゃん、高校生にもなってだらしなくて………真尋、ちゃん?」
帰って来た空くんの顔を見れず、私は全力で俯いていた。 恐らく漫画みたいに顔を真っ赤にしていたと思う。
こんな背徳感、これから先私の人生で感じる事は無いかも知れない。 どうかしてる、完全に。 私………
――――― 食べちゃった。
ご―――ごめんない! ごめんなさいっ!
アダムとイブだってリンゴ二人で食べたよねっ!?
私は “単独犯” です!!
手を、出してしまった……! 空くんの生クリーム《禁断の果実》に………。
もう後戻り出来ない……私って変態だよぉぉっ……!
「空くん」
「な、なに?」
「ごめんなさい、色んな意味で……」
「いやぁ、僕がだらしないから悪いんだよ、ゴメンね」
―――む、胸が痛いっ………。
私は罪悪感、背徳感、その他もうなんだかわからない諸々の十字架を背負って空くんとお店を出た。
お礼として誘われたから、空くんにご馳走してもらったんだけど、出来れば私が払いたかった。
でも、それで私がレジに行っていたら、お会計は “神様への賄賂” という汚いものになってしまっただろう……。
それでもまだ空くんの隣を歩く私は、なんて罪深い女。 うぅ、こんな私を許して……。
「たまにはああいうお店もいいね、今度家でも作ってみようかな?」
「う、うん、そうだね」
変わらず話しかけてくれる空くん。 その時、すれ違った二人の男の人達の声が聴こえた。
「すげー身長差だなあの二人」
「あれ付き合ってんのか?」
「ないだろ、あれじゃ背伸びしねーとキス出来ねぇよ」
―――歩かなきゃ……。
じゃないと、空くんに変に思われる。
バカみたいに浮かれてたから忘れてた、そうだよね。 周りから見た私達は、どう考えても “でこぼこ” だよ。
私と一緒に歩いてたら、空くんが笑われちゃう。 そんなの………嫌だな。
きっと加藤さんなら、保健の先生だってここまでは言われない。 別府さんなら寧ろお似合いになれる。
私じゃダメだ……。
―――― 私だけ 、だめ。
ゴメンね、空くん。 恥ずかしい思いをさせて。
………もう、なんで? 足が………止まっちゃうよ。
止まったら――――きっと泣いちゃう。 そんなの、余計困らせるんだからね……。
「なんだか、恥ずかしいね」
「…………ごめ――」
「僕達恋人に見えるんだ」
………大丈夫。 見えないから、安心して?
「ねぇ真尋ちゃん」
「……はい」
「もし僕が真尋ちゃんの恋人になれたら……」
な・れ・た・ら・……? そんな、気を遣わなくても………
「僕は背伸びしても、飛び上がってもキスするよ」
「…………」
私の足は――――止まった。
空くんは前を歩いている。 私はその背中に、
「好きだよ」
届かせるのが怖いから、小さく告白した。
足が止まったのは、諦めたからじゃない。
まだ伝える勇気が無いけれど、どうしても今、言いたかったから。
そして、また私は歩き出した。 空くんに追いつくように。
「空くん、今日は本当にいい天気だね」
「うん。 絶好の “デート” 日和になった」
………もう、私の天使はサービスが過ぎるんだから。 本当に勘違いするからね。
「私ね、こんな “空” ――――大好きっ!」
私は天使にはなれません。 姑息な人間だから。
でもね、―――
「お、驚かせないでよ……ひどいなぁ……」
空くんはいいんだよ? 勘違いしてくれて。
打たれ弱い私は時々挫けたりもするけれど、いつか届かせてみせる。
私――――諦めないからねっ!
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